光一が清水へ特別な感情を抱いていることを知ってから数週間が経った。
「はぁ〜っ」
全身から力を抜くように大きくため息をついて、職員室の自分の机に突っ伏した。というか倒れ込んだ。可愛らしい俺の心はあの二人が並ぶのを見る度にズキズキ痛みやがるし、やめちゃえばいいのに諦めの悪い俺は今だに光一が好きだ。後悔だけは、死ぬほどした。…してる。
中学時代
離れ離れになる前に、なんで告白しておかなかったんだって。
大学時代
せっかく再会したのに、なんで行動に移せなかったんだろうって。…でも、俺は…
「っ、どうしようか…」
ぼそっと聞き取りづらい呟きが耳をかすめた。
「…どーかした?」
「…あぁ、…いや別に大したことじゃ無い」
そう言った光一は、明らかに何かあったもしくはこれからあるようにそわそわしていた。
「だから、なんかあったなら言えってば」
「…何でもない。校内放送をしようと思っていたんだ」
「は?」
校内放送は職員室にある放送用のアナウンスマイクを使う。
「だったら早くしろよ」
「…わかってる」
指を差すと光一はなぜだか不機嫌そうに眉を寄せた。カチッ、とスイッチを押してアナウンスが始まる前のお決まりのメロディを流す。ピーンポンパンポーン。ちょっと間抜けだ。
光一は手を添えるようにして口を近付けた。
『2年3組清水蓮。さっさと数学準備室に来い。』
「…………、」
もう一度さっきとおんなじ音がして、桜場先生のお知らせは終了した。
(なぁーんだそゆこと。)
低い声だ。それだけじゃそっけなく聞こえるんだろうけど。
知ってるかー清水。桜場先生はな、今の放送する前マイクの前でウロウロウロウロしてたんだぞ。アナウンスし終わった後も顔に汗かいてるし。
(中学ん時から変わんないよなぁ〜)
知ってるか 清水。俺の好きな奴はな、お前のことが好きなんだよ。…出来れば知らないでいてほしいなぁ…なんて、ワガママか。