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自分の電話番号の2つ下に書いてある京平の名前を確認し、
受話器を手にとった。
そして
体が固まってしまう。
(―やばい…
なんて言おう…)
ここまで『光一に謝りたい!!』という勢いだけで来てしまった。
だから冷静になってしまうと…体が動かない。
(どうしよう
光一の親とかでちゃったら俺はなんて言ったらいいんだ…!?)
「―っ」
「何うだうだやってんの!?」
「わっ!?」
紗希は俺がにぎりしめているプリントを覗き込んできた。
「急に顔出すなよっ!!」
俺はぐるっと振り返って抗議した。
「いーでしょお
何やってんのかぐらい教えてくれたってさぁー」
「よくないっ!!さっさと部屋戻れ!!」
俺が声を上げると、紗希は「ちぇー」と言ってから、
リビングをでていった。
紗希が階段を上る足音を確認すると、
俺は改めてプリントをみた。
「……」
(なんでかたまってるんだ俺…!!)
どうしよう
急に電話して…
光一…嫌じゃないかな…
(押せよ電話番号!!
これじゃ
なんのためにプリント探したのかわかんねーじゃん!!)
せっかく仲良くなれたのに
ここで
うざいヤツって思われるくらいなら
電話、しないほうが―…
(あーもう
なにをやってんだよ!!
男だろ梶原京平っ!!)
光一が
急に電話かけてきたら
俺は
どう思うだろう
(変なこと考える必要なんか一切ないし、
ちゃっちゃとかけて)
…嫌…な、ワケない
むしろ
少し…
というか
結構…嬉しい…
(用件すませて
ノート、うつさないと…!!)
…光一も
俺とおんなじように反応してくれるかな
(つーか、
電話ぐらいでなんだってんだよ!!)
でも
絶対驚くし―…








「…なにしてんの?」
あきれきった声で紗希がへたりこんだ俺の背中に語りかけた。
「―紗希っ!?
お前、部屋戻ってろって言ったろ!?」
俺が振り返りながらそういうと、紗希は一瞬固まった。
「………
何…言ってんの…
あれから1時間は経ったよ?
宿題終わっちゃったから下りてきたんじゃん。」
「―え?」
沈黙が走る
汗が額を伝った
「気づかな…かった」
「はぁっ!?
もしかしてずっとここにいたの!?」
(そんなに…
時間経ってたのかっ)
「………うん」
返事を返すのに時間がかかった
紗希がどんな反応を示すか想像できてしまったからだ。
「信っじらんない!!!!
ばかじゃないの!?
で、用はちゃんとすましたんだよね!?」
"用"か―…
「…まだです」
「はぁあっ!?
じゃあ あんた1時間もここで一体何してたの!?」
「………」
(…返す言葉がみつからねぇ)
―…光一に電話するかどうかで
1時間も悩んでいたなんて
(…そんな乙女なっ!!)
「……はぁ…」
俺が下を向いて
心の中で自分自身につっこんでいると
紗希があきれたようにため息をついた。
「…電話すんならさっさとしなよ
兄貴の初恋なんか興味ないっての」
「あーうっとうしい」と紗希は付け足した。
(………)
紗希の言葉が
理解できなかった。
「はぁっ!?
―は、初恋って
だっ誰がっ何がっ」
(俺は光一に電話したいんだよ!!)
俺は顔を真っ赤にして唾を飛ばしながら
両手をぶんぶん振り回し
紗希に否定の意志を伝えた。
「あ なんだ違うの?」
にやにやと笑って紗希はからかうように言った。
「あったり前だっ!!
俺は男に電話すんの!!決め付けんな馬鹿!!」
「はいはい
わかったわかった」紗希は両手の平を俺のほうにむけてなだめるように繰り返した。
(小学生だよねー?
この人ー)
妹が年上に感じるのはなぜだろう…
「だったら早く電話しなよ!!」
「あっこら 返せ!!」
紗希が俺の右手から
プリントを奪い取った。
「ったく
誰に電話したいの!?」
「いーだろ誰でもっ」
俺が手を伸ばしても
紗希はひょいひょいと身軽によけてしまう。
「んー
相川さん?」
「いーから返せって!!」
「飯島さんー?
江崎さんっ?」
(紗希のヤツ上から全員読み上げる気かよ!!)
「紗希っ!!」
「木島さん?
それとも小山さん?」
(やば
もう『こ』まで来たっ)
「じゃ 『さく』」
「光一じゃねぇよ!!!!」
「え?」
(…しまっ)
「『桜場光一』さん…かぁ
ふーん…」
紗希は
光一の名前を確認すると嬉しそうにわらった。
(最悪だ…)
「小学校違うよね?
仲良くなったの?」
「…知らん」
俺は紗希からプリントを取り返すことをあきらめ、
廊下にむかって足を進めた。
「えっ ちょっと
京兄
桜場さんに電話しないの?」
『桜場さん』…か
なんか違和感。
「もうなんかめんどくさくなった。」
「えぇ
なにそれっ
1時間もそこにいたのに?」
「……うん」
(いーや
もう…
明日言えばいいよな…)
俺は右手で後頭部をがしがしとかくと、
小さくため息をついた。
―その時
俺の表情がどんなだったかなんて
俺にはわからない。
けど
その顔は紗希に変な使命感を与えたらしく―…
「わかった!!
番号あたしが押したげるっ!!」
「―はぁ!?」



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