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角ばった、
習字の先生みたいに綺麗な文字。
ノートに並んだ文章をさっさとうつしてしまえばいいのに、
俺は光一のノートをぼーっとみつめていた。
(きれーな字だなぁ…
光一っぽくてなんか良いかも。)
光一が書いたというだけで(寝ていたのだから当然だけど)聞いた覚えのない文字の羅列が
なんだか嫌な感じはしなかった。
「ん?」
ノートの中の単語に、いくつか線がひいてあり、その下に小さな文字で
『ここはテストにでる』
とか
『教科書12ページ参照』
とか
(…これ…明らかに俺のために書いてある…よな?)
俺はノートをうつすことはできても、
教師に授業内容を聞かれれば答えられない。
(…だから。)
光一は、俺が罰を受けさせられるとわかった上で
ノートをとってくれていたんだ。
(ずるいなー
…光一は…)
真面目に勉強をする気なんかさらさらない俺なんかのために
(努力のしかたがずれてんだよな…アイツ。)
俺は口元に手をやって、ククッと喉をならした。
(やっぱ面白いな。)
右手に青いシャーペンをもち、
光一のノートの隣に並べた自分のノートに文字の羅列を書いていく。
(…ちょっと悪いことしたかもな)
『なんで起こしてくんなかったんだよ!!』
はぁ、と大きくため息をつく。
八つ当たりも良いところだ。
(…あやまんなきゃ)
どうせ明日会うんだからそれまで待てば良いんだけど。
なんだか
すごく
今すぐに
…光一の声を聞きたい。
(…電話、してみるか。)
俺は机の上にシャーペンをたたき付け、
勢いよく立ち上がった。俺はバタバタと階段をかけおり、1階へむかった。
廊下を渡って、扉を開け
テレビの前に置かれた机の横を通って、台所へ。
もう何年も前から使っている古い冷蔵庫に、磁石で無造作にはられた白いプリントを1枚1枚確認していく。
しゃがみ込んで下のほうまで。
(これ…じゃねぇ…し)
目的の物がなかなかみつからず、苛(いら)立ちが生まれる。
(あーくそっ
どこいったんだ!?)
「なにやってんの…
京兄?」
ため息混じりの冷めた声がして、俺はギクッと肩を震わせた。
(…最悪なのにみつかっちまった…)
ゆっくりと振り向いて、軽く鼻で笑ってやった。
「べつにぃ?
小学生に言うようなことじゃねーよ。」
「…うっわーつい3ヶ月前まで自分も小学生だったくせに。
もう調子乗ってるんだ?ガキくさっ」
「……」
『小学5年生・数学ドリル!』を両手でかかえた、
黒髪ショートカットの女の子―梶原紗希(さき)が
本来の年齢とかけ離れた言葉をぶつけてくる。
(…わが妹ながら…)
全くもって可愛くない。
俺が冷蔵庫に前のめりにもたれかかってうなだれていると、
「…ちょっとー
人の質問にはちゃんと答えてよね。
何探してんの?」
(………)
俺は口を尖らせて沈黙をつくってから
「…クラスの連絡網のプリント…」
と小声で言った。
「…は?なんでそんなもんが必要なのよ。
べつに学校から連絡来てないじゃん」
あまりに冷静にそう言われると、
なんだか
自分のしていることが
すごくおかしいことのように感じて
なんとなく恥ずかしくなった。
「―べ、
べつにいーだろっ」
(…ノート貸してもらった礼だけのために電話する
…なんて言えるかっ!!)「…まー
どうでもいいけどさ。
この前あんた自分で
『どこにやったかわかんなくなる』
って言って電話機の横においてたじゃん。」
紗希は俺の捜し物ありかを数学ドリルを向けてしめした。
「―あ、そうだっけ!?
サンキュ!!」
(―やっと
光一に電話できるっ!!)
俺は素早く体をひねらせて立ち上がり、
電話機まで走った。



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