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朝は苦手だ。
小学校時代は遅刻の常習犯だった。
「あれ、早いわね
京平、あんたもう行くの?」
母親が首をかしげ、歯を磨きながらながらきく。
俺は学ランのボタンをとめながら答えた。
「まーね。学校まで歩いて15分ぐらいだし。」
ボタンをとめ終えると、髪を手で整えて準備完了。
「それにしたって全然早いじゃない。
まだ…」
「いってきまーす」
母親の言葉をわざと大きめの声でさえぎってやった。
中学に入ってからつかっている真新しいスニーカーを履いて扉を開け、
狭い玄関をでる。
春の朝は寒い。
その上
早起きなんかしたもんだからまだまだ眠い。
「…」
俺は左右を顔をふって確認した。
(まだかよ…)
時間が早く過ぎればいいのに
とかガキくさいことを思いながら
学ランのポケットに両手をぶっこんで
つま先立ちで足踏みを始めた。
タンタンが
タ、タ、タ、
とリズムが自然に早くなる。
(―あ)
俺は鞄を右手で持ち、左手をポケットにいれたまま
学校の方面にゆっくりと歩きだした。
…耳と背中に意識を寄せて。
「―京平?」
聞きたかった声が
後方より届いた。
「…ん〜?
なんか声が聞こえたような気がするな〜?」
俺は振り向かないまま
右上に顔をむけて
わざとらしくそういった。
「…気づいてたくせに。わざとらしいぞ?」
光一がそういうと、俺はくりっと振り返って笑う。
「あ、バレてた?」
「当然。」
光一も俺につられて笑った。
(『当然』…か。)
なんだか
お互いのことがなんでもわかる
って言ってるみたいで良いな。
…とか思ったりして。
「はやくしろよ!!」
「待てって、京平!」
光一が小走りで駆け寄って来る。どうせ毎日こうやって一緒に通うのなら、約束して待ち合わせればいいんだけど…
そういう女の子みたいなことを言う勇気はないし、
いつも一緒にいるのに少しだけ離れてるみたいな
この関係が心地良い。
…たぶん
俺と光一はこれがあってるんだと思う。
…そのためには早起きな光一に合わせる必要があるんだけど。
(…まーいっか。)
睡眠は、学校でとろう。
たぶん光一が起こしてくれる。




「…まだ怒ってんの?」
そう言って首をかたむける光一。
俺はあえて返事をしなかった。
「…悪かったとは思ってる。
でも、一番悪いのは寝てた京平だろ?」
「だからって!!
一言かけてくれたっていいじゃん!?」
今日の授業中、バッチリ居眠りを決め込んだ俺は、
今さっき先生の大目玉を喰らってきたばかりだ。
「一言かけたし、ちゃんと起こした。
まぁ、起きなかったんだけど。」
と、言うわけで俺は罰として
授業の内容をまとめたノートの提出を余儀なくされた訳だが。
(くそー…聞いてもない授業なんかまとめられっか!!)
「…教科書写したらごまかせるかな…」
そんなふうにボソボソつぶやきながら
歩いていたら
気づけば
すでに自宅の前に来ていた。
「あ、じゃあ光一また明日な」
そう言って家に入ろうとすると、光一が俺の右手に何かを握らせてきた。
よく見るとそれは
"桜場光一"と書かれた数学のノートだった。
「これって…」
「……少しはオレにも責任…あるしな…」
結構、予想外。
「……」
「…?おい京平?」
「……がと」
「は?」
「ありがと、すげーうれしい!助かった!!」
ただ、
ただ純粋に光一が俺のために何かをしてくれたのが嬉しかった。
「そうか、なら良かった」
光一も、予想外の俺の喜びっぷりに少々驚いている様子。
「それじゃあ、帰るから。頑張れよ。」
そう言って去っていく光一を眺めながら、左手で小さくガッツポーズしてしまったことは
光一には秘密だ。



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