部屋の中にずかずか割り込んで来た桜場は俺の右手首をがっちりとつかみ取って、

「は!?ちょ、何するんすかっ」
一応敬語使用中の俺を無視して部屋の外へ連れ出した。
がちゃん、と扉をしっかり閉めてから先生は俺を氷点下の黒目で射抜く。

「な、なんですか」
「あんなにたくさん男連れ込んで楽しそうだな」
「連れ込っ…!?」

どういう言い掛かりの付け方なのか。男同士でしゃべってるだけで不機嫌になっちゃうとかどこまでめんどくさい奴なんだ。

「変な言い方すんな!隼人さんは普通に後藤の友達だ!」
「だから問題なんだろう。というか、部外者を校内に入れるなんてどういうつもりだ?」
「うぐ」

(…隼人さんが勝手に入ってきたんだけど…いや、あの人だけのせいにすんのは駄目だ。俺だってしゃべってたんだしな…)
「…すみません」
「オレはこのことをお前達の担任に伝えなくてはならない」
「えっ」
「どんな処分が下されるかわからないが、そういうことだ」
(そんな…)

どうしよう。俺はそれなりに勉強してきたし、とてつもなく苦手な運動だってしぶしぶだけど頑張ったつもりだ。
それがこんなとこで―…

「…黙っていて欲しいか?」
「…へ…?」

俺は馬鹿だった。
「オレが黙っていれば、さっきの後藤の友人をすぐに学園から出せば誰にもばれることはないだろ」
「だ、黙っててくれるんですか…!?」

なんでまぁこんなに喜んじゃったんだろうなぁ。アホか俺。

「あぁ」
(良かっ…)

「清水がキスしてくれたらな」
「……………………は?」

 俺はまだ、この男をなめていた。

「…お前の判断次第で他の奴らの内申にも響くが?」
「……っ!?」

(最低だ…最低だコイツ…!!!!)
口元はにやりと相変わらず腹立たしく持ち上がってるけど、目は笑っていない。

「ほら、早くしろ」
「え、っちょお前、マジかっ!?」
「オレはいつでもマジだ」
「――っ…」

(どうしよう)
キスなんか、しかも俺からとかできるわけがない。いやでもしなきゃいけないんだってさ。後藤とか長谷川とかの成績なんて正直どうでもいいけど、
…俺の成績がかかってる。

「…目ぇ閉じてろよ」
「了解」

(うわあああ腹立つッッ!!)
「…っ」
顔を右に傾けて、ゆっっっくりと桜場に近づける。

「…え、渚お前の友達ホモなの?!」
「馬鹿、隼人声出すなよっ」
「!?ち、違うっっ!!」
「ぅぶっ!?」

隼人さんの声が耳を貫いて、びっくり通りこして頭ん中おかしくなっちゃった俺は桜場の胸を思いっ切り突き飛ばした。低めのちょっと心配したほうが良さそうな危ない声がしたけど、んなこと考える余裕は俺にはない。
背中で押してた扉をガチャッと開ければ「うわわわわ」とベタな感じでヤンキー三人集がばたばたと倒れる。

「俺はホモじゃねぇ!」
「…お前ら…校則違反だけじゃなくオレの楽しみまで邪魔しやがって…」

桜場さん、怖いです。
「…清水だっけ?」
「え、…はい」

上目遣いに見つめてくる隼人さん。じっくり見るとやっぱり顔は失礼かもだけど女の子かってくらい綺麗に整っていて、少しどきりとする心臓は正直だ。

「…なんかお前は俺と同じニオイがするよ」
「…え?…いやいやいやっ俺隼人さんみたいに…そのケンカとかできませんしっ」
ふっと何か悟したみたいに笑うというより微笑んで、差し延べられた手の平にほとんど無意識に俺も手をそえて、

「友情の握手」

だそうです。
(…なん…で?)
知ってはいけないのだろうか。

「…とにかく…さっさと出ていけ他校生!」

桜場の叫びがぐわんぐわんと寮内を駆け巡った。
「じゃーまた来るわー」

と怪しく歯をみせて笑った隼人さんは、――何故か窓から帰って行った。

「ったく…」
「なはははっやっぱ隼人おもれーなぁ」
「だな」
「笑い事じゃねぇよ…」

楽しそうな長谷川と後藤に俺と桜場が珍しく同時にため息をついた。




おわり



相互大感謝!
たけねこさんへ!




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