「おー!海だーっ!」
「そりゃまぁ、ここは海だからな。」

礼のごとく桜場さんの愛車に連れ込まれて、俺は海岸に到着した。

右手に浮輪をしっかと抱えて、上半身裸でがっちり水着を着た。何と無く恥ずかしかったけど、でもやっぱ何て言うかそこはスルーしてやった。

(…別に別に別に?桜場のことなんか意識してないもんね。だって男同士なワケだし、さ。)

「…海って広いんだな」
「……そりゃ、地球の10分の7だからね。」

世紀の大発見をしたように目を輝かせて彼が言った言葉に、俺は嫌な汗を伝わせた。俺の首が固まって動かない。

(違う違う違う。水着姿の桜場が右隣りに居ようが居まいが関係ないけどねェェあはは。)

つーかおかしいだろ。
なーんでこんなほどよく筋肉ついてんだコイツは。
お前だってインドア派のはずだろうが。もっとこうダサくてイイんじゃねぇの。

「…ね、あの人かっこよくない?」
「だねっ」

(……………っ)

ピンク色のビキニを着た可愛らしい女の子がこちらを指差す。
(やばい腹立ってきた)

こうなってくると、男としてのプライドが、…なぁ。

「清水、」
「俺泳ごーっと!」

サンダルはすでに脱いであった。もちろんわざと桜場先生の言葉を遮って走り出す。

「待て、清水っ」
(何で来るんだよ!)

せっかく一人きりにしたのに。女の子達の嬉しそうな表情が目に入らぬか。

じゃばり、駆け込むと、水しぶきが待った。

(うわ冷てぇっ)

「海の水は青いんだな」
「………」

ワケのわからないことを言う奴が、後ろに。
(あーもー来るんじゃなかった!)
じゃばじゃばといつもと違う足音を聞きながら、深いとこまで進んだ。

「……やはり、来るんじゃなかったかもな。」
(…え。)

どくり、と心臓が嫌な感じに跳ねた。

("来るんじゃなかった"…って)

俺は足を、海の中の地面につけた。
「お前が、来たいって、言った、んだろ」
「来たかったんだよ」
「だったら、…ッ!」

振り返った。
瞬時に後悔した。すぐ目の前まで来ていた桜場。彼の右手が、塩水に濡らされた俺の髪を撫でた。

「お前の水着姿…他の奴に見せることくらい堪えられると思ってたのに…無理そうだ」
「――み、っ!?」

外だっていうのに
人がみてるのに
彼は俺を抱きしめ、た。

(ちょ、待っ)

肌と肌。
直接、体温が伝わる。

「水に濡れた髪とか…駄目だな、理性が持たん」
「持たせろアホか!」
「…あぁ…でも、水着は脱がしやすくて、…良い」
「っはぁあ!?わ、っ」

くすりと笑った桜場は、腰の辺りに手を滑らせてきた。

「やめっ」
「あぁでも脱がす楽しみが無いのは物足りなく感じるな」
「―――ッッ!!!!」

(コイツは、コイツは)

「離せ変態ッッ!!!!」
「だッ!!?」

ゴンッッと頭突きを食らわすと、桜場が後ろにのけ反った。するりと逃げて行った手を確認して、俺は流されてしまった浮輪を取りに向かった。

「清水、泳げないのか?」
「…10メートルはいける」

そうか、と言ったくせにアイツは笑いやがった。

「溺れても良いぞ?人口呼吸してやる」
「ふざけんなっ!」
たぶん本当にしやがりそうだから、溺れてたまるかと浮輪に体を通した。

 




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