「なんだよ、話って」

「別に」
「は?」
掴んだままの俺の手を、いっこうに離さない桜場をぎろりと睨んだ。

「別に話なんか無い」

きっぱりと言ってのけてくれちゃった数学教師の言葉があまりにカンに障って、俺は思わず声を荒げる。
「用もないのに呼ぶんじゃねーよっ!」
繋がった手をぶんっと上から振り下ろして外そうとすると強引に引き寄せられる。

「用ならある」

お約束のスローモーション
交わされる口づけ。
くだらない言い争いには不適切なキスに俺は目を見張る。

「ッ、やめろっ!」

「痛っ」
無理矢理に引きはがしてやると桜場が顔をしかめた。なんだその、『オレは被害者です』みたいな顔は。

「…お前な…少しは加減しろ…せっかく二人になったんだ、これくらいいいだろ」
「うるせーなっ!」
「いい加減素直になれ」
「ア・ホ・か!!!」

ふざけたことをぬかす桜場に怒号を浴びせて口元を拭う。
(っくそ、変態教師め…!)

する、と頬に彼の手の平の温度を感じて顔をあげた。
(?)
「…もっとキスして欲しそうだな」
「なっ…!」
かぁああっと怒りと羞恥で顔が赤くなる。

「お前な、じ、自意識過剰にもほどがあるぞっ!」
「オレの勘違いだと?」
「あ、当たり前だっ」
「ほお」

にやにや笑いやがって腹が立つ。
「なぁ清水」
「ん?」
「誰か居たような気がしたんだが」
「―――――え…?」
サーっと血の気の引く音が聞こえる。
「いや…誰も居ないな、気のせいか」
「こえーこと言うなよ!」
「悪い悪い」

良かった、誰かに見られたりしてなくて。



 








教室の扉に手をかけた。
「はぁ?じゃあなんもしなかったわけ?」
「別に清水に用があったわけじゃないし」
「お前、嫉妬とかしないのかよ」
「するわけないじゃんなんだよそれ」
扉をスライドさせた。
「いやだって、…お前、…まぁ…いいのか」
「よくわかんないけど、いいんじゃないの?」
「後悔しねェ?」
「するわけないって」

「何の話だよ」

「…よォ清水…何でもねぇよ」
「そっか」
長谷川に短く返した。彼の隣で壁に寄り掛かる金髪は俺が教室に帰ってきても無反応。

「後藤?」
「…あ、いや、何でもない」
「そっか」

友情でできた日常

「あ、清水、悪いけど英語の課題見してよ」
「またかよお前」

平凡だから楽しいんだよな。


 




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