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「あいつに女ができるとはなー!ヒョロ太のくせに生意気ーっ」
下を向いたまま、山本はいつものように明るく言った。
その明るさがニセモノのような気がするのは俺の気のせいでありますように。
遠藤の下の名前が"翔太"で、入部当初はすごく細かったから当時の部長が"ヒョロ太"と名付けた。それから野球部の奴はアイツのことをみんなそう呼んでいた。3年になってからは身長も伸び、筋肉もついて体格が良くなったからそう呼ぶ奴はほとんど居なくなってしまったけど。

「………」
沈黙が俺達を包んだ。
山本は足元を見下ろして
俺は流れていく景色をみつめていた。

空も 山も 家も コンビニも
全部
同じスピードで流れていく。
変わらずに
ごくごく当たり前に過ぎ去っていく。

 (―あ)
変な着ぐるみを着せられた柴犬が目に入って、しっかり見たいと思ったけれどすぐに小さくなって
みえなくなった。
どんな着ぐるみを着た
どんな犬だったかなんて
もう忘れてしまった。

「………」
(あーあ)
なんとなくため息をつく。

『次は月森駅ー月森駅ー』
車掌のアナウンスが響いた。

(あ、降りねーと)
山本と俺は同じ中学に通っていた。家はけっこう近いけど一駅分差があって、俺が先に降りる。右手で鞄を持って、山本に背を向けて「じゃーな」と言った。

しかし足を外に出す直前、肩をつかまれた。

驚いた俺は足を止め、ゆっくりと振り返る。

「…何」
「今日、オレの家寄ってけよ」
山本は顔もあげずに
低い声で言った。
「…え、でも」
「いーじゃん、な?」

山本はいっこうに肩から手を離そうとしない。プシーッと音がして、扉が閉まった。

「…わかったよ」
俺は観念して、鞄を床に落とした。どたん、と床と鞄が鳴いた。

(…まぁいーか)
なんとなく、
帰りたくないような気はしてたんだ。

 



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