「はいオレの勝ち〜っ」
嬉しそうにそう言いがら、山本は電車に乗った。
「ずっずりぃ…っ」
ぜはぜはと息を切らしながら俺も後に続く。駆け込み乗車はおやめください〜と言ってやった。
「駆け込んでねーもん。あ、オレはソーダがいいなぁ」
「ソーダぁ?何の話だよ」
電車の中はガラガラで、席は山ほど空いてるっていうのに座ろうとしない山本の右隣りに立った。
「あれ、負けた方は勝った方にジュースおごるんじゃねーの」
山本は口元を持ち上げてニヤつきながら言った。
「そんなルールねぇよ、残念っ」
「え゛ーーっ!!」
文句を言う山本を無視して吊り革につかまる。体重を預けると、ギチギチと鈍い音がしたけど100キロくらいは平気だとテレビでみた気がするから大丈夫なはず。オレの努力は何だったんだ、とかなんとか言いながら腕で顔の汗を拭く山本を横目で盗み見て、
(もうすぐ出発すっかなー)とか思っていると、
きゃいきゃい騒ぎながらカップルらしき2人組が乗車してきた。
俺達が入ってきた扉より1つ奥から入ってきたからけっこう遠かったんだけど、
「―あれ、遠藤じゃねーか?」
俺は指を差す。
「―あぁ?」
山本は顔をあげ、すぐに目を見張った。遠藤は野球部のエースピッチャーだった。流星学園からの失点を抑えることができたのはアイツの力が大きい。
その遠藤が、長い黒髪を赤いゴムで束ねた可愛らしい女の子と一緒に居た。楽しそうに笑いあって。
「……ほんとだ。」
そして山本はキャッチャーだった。何よりもお互いを知りあいわかりあい
信じあう仲だったのに。
「あいつ彼女できたんだな。」
「知らなかったんだ。試合終わってすぐ応援来てた子に告られたんだってさ。」
「へー…」
山本は下を向いた。
何気なくした行為なのかもしれないけれど、俺には山本がすごくさみしそうに見えた。