「…あ、あれ書いた?」
「あれって?」
山本はこっちをみることもせずに返す。
「進路希望調査っ」
そういうと、
あーーーー……と唸るようにしてから、
「まだに決まってんじゃん」と答えた。
「あーやっぱり?」
「…わかってんなら聞くなよなぁ」
(山本は野球しかできねぇからな)
わりぃ、と笑みを含んで謝罪。
「あ、でもっ」
山本は勢いよく体を起こす。
「なに」
「将来、どんな仕事してっかはわかんねーけどさ」
首をひねって俺のほうに顔をむける。
「またみんなで
野球したいよなっ」
にかっ と歯を見せて笑った。
「――だな」
そんなふうに言うのはこそばゆい気がしたけど
あっさり同意の言葉が出てきた。
もちろん、笑顔が付き添って。
―ピリリリッ!
突然、携帯のアラームが鳴って俺達は同時に肩を震わせた。
「何だよ!?びびったぁ!!」
目を見開いく山本に、
「ほら、階段のぼってきた時にセットしたじゃん」
と立ち上がりながら告げる。そう言ったとはいえ、俺もアラームが鳴るまで屋上にきた理由を忘れていた。
「はやく駅行こうぜ。電車来ちまう」
そう言ってうながすと、山本はけだるそうに立ち上がった。帰りの電車まで時間があったのだ。この辺りはまぁまぁ田舎なんでそんなに頻繁に電車はこない。だから1本逃すと大変というわけで。
「よし競争すっか!」
「はぁ!?」
山本のテキトーな一言に俺は眉をつりあげた。俺の拒絶なんか気にもとめず、山本は駆け出していった。
「待てよセコいぞ!!」
言い出したら聞かない山本の背中を、俺は自然に追いかけた。