「勘違いすんなよ」
「何が」
「り、リクエストがあったからするだけで、キッ…キスなんか、俺はしたくねーし、いいな、わかってるよな?!」
「はいはい、早くしてくれるか」
「…手は気をつけ」
「はい」
「…ちょっと屈め」
「はい」
「…目ぇ、閉じろ」
「ん」
「……」
桜場は俺の言った通りにした。睫毛(まつげ)は意外にながく、綺麗な顔をしているなと思う。
「っ」
どうしたらいいんだろう。
肩に手を置く?
頬にそえる?
(あーでもなんかそれじゃ、俺が結構積極的みたいじゃないかっ)
「…ッ」
ごくん。口の中は渇いてしまって何もないのに、俺は呼吸を呑んだ。
空気が震える。
俺はぐぐ、と目を細め眉を寄せて不細工になりながら、桜場との距離を詰めていった。
(う、わ、俺、すんのか、桜場と、きす。したこと、なくはねーけど、でも、自分からって、あ、いや、でも、リクエストには答えないとだし、ちくしょ、くそ)
「っ、ん…」
無音で
唇と唇が触れた。
(うわ、したよきす、やばい死にたい、恥ずい、死にそう、だ)
唇と唇は離れる。
「…ま、満足か」
ばくばくばくばくばく、心臓が大騒ぎだ。
「お前さ…焦らすなよ」
「焦らしてねーよっ!!」
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