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「じゃあ、挨拶してくれるかな。」

松浦が手をひらひらさせて転校生を促した。
「………」
口を一文字に結んだままの彼は氷点下の視線を教室中にまんべんなくまいてから、ふぅ、とため息をついた。
…ケンカ売ってるんですよね?

「…一条司(つかさ)、…だ」
(名前まで漫画みてぇだな)

その少女マンガのヒーロー並の名前を放ったその喉は、一体何を食べたんですかってくらい綺麗な声を発射する筒のようだった。ここがただの共学ならきゃいきゃい騒がれて盛り上がるとこなんだろうけどここは男子校だよざまーみろ。
『しーん』という文字が見えそうなくらい静まり返った。

(だーから何かしゃべれっつーの。)
「あの、一条く…」
「気安く呼ぶな。」
「…え?」

ぴしゃりと言われた松浦はぱちくりと目を開いて信じられないと言うように眉間にシワをつくった。
俺にも信じられない。こういう目立つ奴と同じクラスになるのが大変だから嫌だったけど、担任も相当大変だな。

(教師なんかなるもんじゃないねぇ…)
「って、ちょっと!」

いきなり転校生は歩きだした。ずんずんと迫力に満ち溢れた感じで。
松浦が呼び止めても綺麗にシカト。耳に入れる気はさらさらないってか。
教室の後ろ側に向かって歩みを進めるから、俺の方に近づいてきた。

「うわ…」
と声を漏らした右側の残念な奴はスルーして、俺は転校生から視線をそらした。
だって目があったら絡まれそうだから。

「どけ」
低い声が降ってきた。
(…マジかよ)
期待裏切らないなぁもう。


 


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