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「お前って、先生のお気に入りだよな」
取り合えずまだ高校生になったばかりの俺程度が持つ語学力をふんだんに使って嫌味をこぼした。
「…お気に…?」
小さな沈黙を前置きにしてから俺の言葉の中で一番耳に残ったらしい部分を口に出してみる一条。そうしないと何て言われたのかもわかんなくなってしまうのか?
「うん。ほらみんなから『一条くん一条くん』って呼ばれてさ、あーゆーのってやっぱ気持ちいいの」
「はっ…何を言うかと思えば。」
顔は見てねぇからどんな表情なのかわかんないけど俺の頭が弾き出したアイツの顔はいつもの、人を雲の上から見下ろしたような顔、だ。高いとこからだから見えにくくて目を細め眉を寄せて、この凡人が言いたいことは俺にはさっぱりわからん、とか言いそうなあの顔。
「あんなの、鬱陶しいだけだ。」
「え」
あらら、先生方がせっかく媚び売ってるっぽいのに。逆効果だったみたいですよ。
「あれはオレに話し掛けているわけじゃない」
「……どーゆーことだよ」
一条の言わんとしてることがぴんと来なかった俺は思わず彼の顔を見た。しまった、とは特に思わなかったんだけども。っていうよりはやっぱこいつ綺麗な顔してんなぁとかしか考えることが浮かばなくて。
…あ、もうひとつあった。彼の、一条の表情が俺の知らないそれだったこと。そりゃまぁ数日そこらでその人間様を知った気になるなんてどうかしてたってことですね。一条は、目を伏せるようにしていた。俺のつたない日本語で言うなら、彼は教室中のどこも見ずに、とにかく切ない顔をしていた――。
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