38/59



「ぁ、はッ…」
吐き出した熱の余韻。それがこんなに悪魔的だなんて知らなかった。知りたくなんかなかった。

「っ、桜、場…」
無意識に名前を呼んだ。口に出したあとに内側から俺の鼓膜を揺らした声色が可愛らしく響いて、
(乙女か!)
とひさびさに突っ込む。

「悪い、清水無理みたいだ…」
「ぇ、っ?」
桜場はたぶん俺に謝罪することを最優先事項としたんだ。俺に話し掛けたりするときはなんかこう、俺をからかうために全力を尽くしてる感があるのに、今回は計算なんてかけらもなかった。
「っ!」
何だ、と問う暇なんて与えられなくて、桜場の鼓動が繋がった場所を伝って俺の心臓を叩いた。
「!」
敏感過ぎていい加減解放して欲しいとこに、熱い液体がぶつかった。

「待っ…!ぁ、ぅあ、ぁ…っ」
「く、は…――ッ…!!」
びくびくびくと足やら腰やらが跳ねて、俺の体はもうコントロールが聞かない。
「ッ…は…」
桜場はもう座ってんのもキツいらしくぐったりと体を倒した。
(ま、マジかよ、ふざけんな…!!)
「っ…本当に…悪、い…」
「………コロス…」
 
ずしりと腹の下の方が重い。その理由が何かなんて考えたくもないけど。

「っ…桜場、早く、抜、け…っ」
声が掠れる。体の水分は汗になって消えてしまったんだろうか。

(あーもーなんだなんなんだこれは…っ!)
冷静に考えて見れば、俺はごくごく普通の生徒で。桜場は教師。絶対に絶対に絶対におかしい。こんなおかしい状況から、一秒も早く逃げ出さなくてはならないに決まってる。至近距離過ぎて、しかも眼鏡外してるのがなんだかもー変な感じで顔を直視できない。

「さく、らば、早く…!」
「…………断る」
「は!?…っ、ぁ…!」

恥ずかしいとか悔しいとか全面的に全力でスルーして助けを求めたってのに、桜場大先生は拒絶の言葉を返してくれた。

「悪いな、まだ…離してやれない。」
「ちょ、待…っ!」
桜場の大きな大きな手が俺の上半身を滑る。甘い言葉を俺の鼓膜にぶつけながら、彼は俺を抱きしめた。引きつった、裏返った、掠れた、震えた、自分ですら知らない声。その声が桜場の車の壁にぶつかる。桜場の顔で埋まる視界に時々除く彼の車の中。
これでどこへ行ったんだろう。これに誰を乗せたんだろう。……桜場は、俺以外にどんな人を抱いたんだろう。

「…清水、愛してる…」
お前は、それを俺以外の奴にも言ったんだろ?…なんて

(何考えてんだ、当然だろ…)
「っは、ぁ、っあ…!」
今は抱き寄せてくる腕は俺だけを求めてる。深い口づけを仕掛けてくる唇は、俺だけに愛を囁く。
そこに居るのはカタブツな数学教師ではなくて、俺だけの桜場光一だった。

「ぅあっ…は、っく…!」
何度も貫かれて、その度、頭のどっかがショートする。
 「さく、…ら、ば」
暑さか。それともおかしなこの状況のせいか。
「!」
ほとんど無意識に両腕が桜場の背中に回る。ぎゅっとジャケットを握りしめてやった。

「っさく…らば」
「…!清水…っ」

夢なら、さっさと覚めてくれ

深いキスに翻弄されながら、俺はそう祈った。



 



「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -