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(こ、こいつ…俺、の、飲ん…っ)

彼は自らの唇を汚した白を赤い舌で舐めとった。粘り気の強いそれがくちゅ、なんて水音を立てて、こくり…と喉仏が動いた。恥ずかしいなんていう感情をあっという間に通り越して、耳がキーンと鳴った。

「っ…ご」
じゅわじゅわと溢れる汗がTシャツを濡らして俺は口を少しだけ開いたりやっぱり唇を噛んだりしながら、顔を伏せた。

「…なんだ」
「っ…」
(うあああ…もー嫌だもー嫌だもー嫌だもー嫌だ)
熱い熱い熱い
恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい
頭の中がぐわりって奥の方から鈍い痛みで埋まる。桜場はふっ、と笑って

「…気持ちよかっただろ」
「――な、ッ」
眉を吊り上げて目を見開く。ぐっ…なんて、顔近付けるのやめてくれないか。――口を開けば吐息がかかる距離で、桜場の瞳が、俺をうつす。
黒い黒い視線。ウロウロ泳ぎながらも無意識に俺は彼の目に視界を奪われて。桜場は鋭い視線で俺を刺す。
「…っ」
息が詰まる。

(謝ら、ない と…)
顔をそらしてから、震える喉を使用する。
「っご…、ごめ ん…」
「…何が」
「っ、」
桜場の声に反響するみたいに、アイツが喋ると鼓動が大きくなる。
("何が"なんて聞くなよ!!)

そんなこと、
言えるはずがない。
「く、ち…きたな…っ」
声を出す度に馬鹿みたいに体温が上がって。それでもアイツは、必死に謝る俺をみて目尻を垂れさせて口元を持ち上げた。

「別に謝ることはない」
(え)
「汚くない。……お前のならな」
「な、ッ」
長くてゴツゴツした男らしい彼の指に柔らかそうな舌が見せ付けるように這う。

「…っ、」
唇に挟んでちゅるりと抜き出す。少しだけ白く濁った雫に濡らされた人差し指と中指。

"清水…"
低い声が甘ったるく俺を呼ぶ。桜場の手は大きくて、きっと全てを飲み込んでしまうんだ。

彼は
すり、と腰を撫でて、その手はくすぐるように

下りて行った。

ぞく、と心臓の温度が下がった感じがした。トロリとした液体に濡らされた中指。

「待っ」
ぐしゃりと両手で黒いジャケットを握った。それでも。つぷ…、と第一間接まで滑るように、彼の中指が中へ割り入ってきた。
「っ…!」
存在を意識したことがない部分に、想像できない動きをする物体。
「んく…っ あ…!」

怖くて
不安で
息がうまくできない。
「っあ…は…ぅっ」
指がゆっくりと俺の奥へ中へ進む。
「っあ…ァ…!」
もう限界、これ以上は無理。そう思うのに、彼はどんどん俺の中を進んでいく。

(指、なが…っ)
もちろん悪い意味で。

ぐり…っと回る。擦れて、甘い痺れが体を駆け巡った。
「ぁ…っ!」
ク、と第二間接を曲げる。体が揺れて、手の力が抜けた。
「あ…っ!はぁ…ッく…いた…っい、から…ぁ…!」
じゅぷ、と恥ずかしげもなく音をたてて、自分の体を 中を 掻き乱される感覚に、聴覚から鼓膜まで犯されていく。


 



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テーマ「人外ファンタジー」
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