31/59



「…はぁ…はぁ…っ?」
俺は必死に息を整えながら眉を寄せ、細めた目を向けた。ジーパンの上をゆっくり通って桜場の手は俺の足の間まで進んだ。

「っ!」
顔が火を吹くほどの爆発的羞恥心。
「…へぇ…」
彼は嬉しそうに口元を歪めた。

「な、ばっアホ、手ぇどかせ馬鹿!!」
ぐ…っ と桜場の手に力が入る。
「っあ!」
体は勝手に跳ねて、どっから出てきたのかわからない声が漏れた。
「ッ…!」
羞恥の大波に飲み込まれて、汗がじわりと吹き出す。

「この変態野郎!やめろって言って…ッ」
「何を今更」

カチャリと金属の擦れあう音が耳をかすめて、ドクンと心臓が跳ねた。途端に理性が俺の脳に帰ってきて、がばっと上半身を持ち上げる。

「まっ…待て待て待て待て待て待て!!!!」
「何で。…このままじゃお前が苦しいだろ?」
「なっばっあほか!!!!わ、っ触んなって!!」

ベルトを外しにかかる桜場の手が僅かに触れるだけで、よくわからない何かが全身を貫く。
「ゃ、め…ッ!」
「何…脱がされるだけで感じるか?」
クス、と桜場はいかにも楽しそうに笑う。

「誰が…っちが、ぁ…っは、さわ…んな…っ馬鹿…ぁッ」
「…清水は嘘つきだな…?」
「っ」
耳元で、耳に桜場の唇が触れるか触れないかの距離で、囁かれる。低い低い声は、甘い甘い毒で俺の頭の中を犯していく。

(あぁ…)
もう、駄目、だ


いつの間にかボタンは外されていて、ファスナーが下ろされて、ズボンが引き下げられる。

「…はぁ…っ」

 俺の下着の中に侵入してきた桜場の手は、ゆっくり、優しく、

「ぁ、は、…っぁ…」
動いて、
「っあ、は…っ!ん、くっ…」
体が勝手にびくびく跳ねて、ドンドンと心臓の鼓動が内側から胸を叩く。ふっとこぼれた桜場の吐息が耳にかかった。

「清水…気持ちいい?」
「っは!?」

血が沸騰したみたいにカーっと顔が熱くなる。
(なに言ってんだこの野郎…っ!!!!)
「っなワケ…っぁ…は…ッ」
「また嘘」
「嘘じゃ、な…っぁ!?や、手、抜け…ぅあ…ッっ」
まるで、体が、俺の体じゃないみたいに
(うわ、わ、なん、だなんだこれ…ッ!)
ちゅうっ…と俺の首に吸い付いた柔らかい感触。熱い二酸化炭素と一緒に出てきたざらざら。

「は…っ、さく、…ら、ば…っ」
腕を顔の上にやって、手で顔を隠す。勝手に上下する肩がもどかしい。

「……さっきから思ってたんだが…」
桜場の手の動きが止まる。…だったら手ぇ抜いてくれないか。よくわからないけど、中途半端が…つらい。

「っな、んだよ…ッ…はぁ…っん…ッ」
「…そんな声で」
「っ…?」
無意識に、桜場の唇に視界の所有権を奪われる。ぱく、と一瞬開いたけれど、すぐに閉ざされて噛まれたらしい唇にシワが寄った。

(なにが言いたいんだ…)

「そんなエロい声で人の名前呼ぶな」
「………」

ぐちゃぐちゃになった頭じゃ、桜場の言葉を瞬時に理解することなんてできなくて
(…?声が…なに…?)

俺はそのまま桜場の顔をぼんやり見つめていた。
けれども。次の音声ではっきりきっぱりくっきり理解した。

「煽っているようにしか聞こえない」
「………」
(…はぁ!?)

 



「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -