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(どうしてこうもまぁ恥ずかしいことばっかするんだっ!?)
「あ、あほ…っ!!」
ゴシ、と口元を手の甲でこすった。暗闇の中だからうまくアイツの顔がみえないけど、どうせニヤニヤ笑ってるに決まってる。からかうようなうっとうしい笑顔があっさり浮かんで腹が立った。

「……っ」
(っつーか、なんで俺が男にキスされなきゃなんねーんだ!)
自分の足元を見下ろしてぎゅっと手を握りしめる。――突然、聞き覚えのある明るいメロディーが響いた。

「!」
驚いて顔をあげると、スクリーン上で黒い画面に白い文字の羅列が下から上へ流れていくのが見えた。世に言うエンドロール。"エンド"とか言うってことはつまり映画が終わったってことで。

(あ、あーあ…)
結局全然話わからなかった。途中まではみれてたのに…
それもこれも
どれもこれも
全てにおいて
右側に座ってる野郎のせいだ。ぎろりと睨んでやる。

「…なんだ、思ったよりも大人しいな」
「は?」
俺は軽く眉を寄せた。
「…いや、いつもならこんなことしたら当たり前のように殴ってくるだろ?」
思い出したように笑みをこめながら言われた。

(そ、そーいや、そーか)
しかもこんな場所でされたんだからいつもの何倍も強くぶん殴ってやってたっておかしくないのに。なんで…だろう。なんで なんで

「……実はあまり嫌じゃなかったとか」
「――な…っ」
パッ と場内の電気がついた。
「……え?」
明るくなってはっきりとみえるようになった桜場の顔。なぜかアイツは目を見張っていて。それをみて、やっと自分の顔が赤くなっているのがわかった。

(あれ?…なんでだ?)
顔があつい。
 「あ、いや、俺は…っ」
桜場は明らかに冗談で言ったのに、俺は…なんで

「ちが、…っ!!」
「行くぞ」

桜場は立ち上がって俺の腕をつかんだ。落としかけたポップコーンを左手で抱えて、強く手を引っ張る桜場についていく。

「ちょ、おい、桜場っ!手ぇ痛いって!離せよ!!」
俺がどんなに大きな声で言っても、桜場がずんずん前に進める足を止める気配はなかった。

(なんだよ一体っ!!)
扉から出るときに、青いごみ箱にポップコーンの箱みたいなのを投げ入れた。小さな白い粒が舞って、清掃員の方に申し訳ないなぁと思った。でも、立ち止まったらたぶんずっこけてたと思う。全部アイツが悪い。

「なぁ、どうしたんだよ、桜場っ」
「………」
彼は何も言わない。
気づけば自動ドアの前まで来ていて、ウィンと古臭い機械音が鳴った。そのまま駐車場までずんずんずん。…残念、ここには桜場の車しかない。桜場がポケットから車のキーを取り出して、四角くてひらべったいとこの真ん中を押した。

ガチャッと気持ちの良い音がなり、鍵が外れたのがわかる。なぜか桜場は後部座席の扉を開けた。

(え?)
不思議に思っていると、つかまれた手を引かれ、車の中に強引に押し込められる。

「うわっ」
いつの間にかつぶっていた目を開けると、シートに背中が乗っかっていて、開いたままのドアから差し込む光に眉を寄せると、覆いかぶさるようにする桜場にキスをされた。



 



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