24/59



「…っおい、もう…やめろって…っ」
数人しかいないとはいえ一応他に客がいるから声を抑えて抗議する。桜場は俺の声なんて気にもとめずに、両手でしっかりと手首をつかんで舌を這わせる。

(う…っ)
中指の根本からツツー…と上っていく。間接のところを舌先ですりすりとくすぐられるとこそばゆい。桜場は俺の手の薬指と中指の先をもってなぜかそれを開かせて間に舌をねじこんだ。今までのも全部恥ずかしいのに、この行為には特に顔が熱くなった。ぴんと張ったところをぐりぐりとされると少し痛い。暗闇の中。桜場の顔は前髪で隠れていることもあってほとんどみえない。それなのに、だ。指に触れるざらざらに意識はあっさり奪われてしまったはずなのに、俺の脳ははっきりと認識している。

「っ…!」
"これは桜場の"
柔らかくて冷たい唇。ときどき触れる歯。熱い吐息。長い舌。
「っうぁ…ん」
(ばか、考えるな…!)
うるさいうるさいうるさい。静まれ心臓。

「やめ…って、言って」
「クス…確かに美味いな」
ぺろっと最後に手の平を舐めて、アイツは笑った。

「っざけんなっ!」
強引に桜場の手を振り払って、自分の右手を取り返す。それからごしごしジーパンに擦り付けた。汚い、と訴えるように。

「食べたいなら普通に食えよ!」
「は?」
(……………)

ああ日本語が通じない。
「…醤油バター味って油っぽいな」
「……そらバターだからな」

そういえば主人公が名推理を披露し始めていた。

(ああもう 全然ストーリーわかんねぇじゃねえかよっ)
はぁっとため息をつくと、体からなんとなく力が抜けた。

(…こんなあつかったっけ)
冷房は一応効いていて、しかも今は春だからさっきまではそんな感じしなかったのに。

(いや、これは、あの、だから…っ)
じわじわ じわじわと、右手から熱がのぼってくる。

(つーか手、舐めるって猫かコイツはっ)
「…清水」
「…………」

絶対返事なんてしてやらない。むかつく。気に食わない。

「……清水」
「………」
(あー映画おもしろいなーうん最高だねぇ。)
背筋を伸ばして、(こんなやついたか?)ってキャラクターの顔をみつめる。くくっと小さな笑い声。

「………手だけで感じたか?」
「っはぁ!?んなわけある――…んっ…」
条件反射で顔をむけると、桜場の左手に口をふさがれる。
「うるさい…」と耳元で囁かれると、また気温があがったような気がした。

「ん、ん…!!」
(お前が変なこと言うからだろうが…っ!!)
と文句を言ってやりたいけどできないのが悔しくてたまらない。はぎ取ってやろうとすると右手で俺の手をつかみとってしまった。顔がぐっと近づいたかと思えば、わざとらしく ちゅ と音をたてて頬にキスをしやがった。耳元でくすっと笑われたらさすがに腹が立って、頭を左右に振って手を払う。

「お前な、…っ」
つかまれた手をひかれ、今度はあっさり唇に唇がぶつかった。

(っ!?な、なっ)
「はは、口も醤油バター味だな」
「なっ」
抗議の言葉を発しようとすると、長い舌で下唇から上唇までべろりと舐めあげられた。

「っ」
「ん、…美味い」


 



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -