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(え 何 何)
心臓が早鐘をうつのは、映画がシリアスなシーンに突入したからではない。ヒロインが犯人に襲われそうとかどうでもいい。

「…っな、何。お前も欲しいの?」
そんなわけないだろ、と頭の中の俺が突っ込んでくるけど、できればそうであってほしい。桜場の手の平の熱が、じわじわと俺の右手に吸い込まれていく。

「…清水」
「なんだよ」
名前を呼ばれて、なぜか心臓が跳ねた。
「それ、美味いのか?」
(…………え)
めずらしく神への祈りが通じたらしい。本当にめずらしく。

「う、うん まぁ」
「そうか」
(なんだ、びびった…)
拍子抜けした…とはこのことなんだな。

(だったら早く手を離して欲しいんですが…)
「オレも味見させてもらおう」
「えっ」
くいっと引っ張られて、体は右側に傾く。桜場はあろうことか、ポップコーンの油でべたついた俺の指をぺろりと舐めた。

「ちょっ…!?おま、何考え…っ」
「うるさい。マナーはどうした」
「…なっ」
軽く睨まれて俺は言葉をつまらせてしまった。それを確認し、桜場は唇で俺の人差し指と中指をくわえてから、舌で撫でる。

「っ…!」
(な、何…っなんだ、なんだこれっ)
ざらざらしたものが指の上を這うのに違和感を感じないわけがない。
「…っ、やめ…っ」
丁寧に丁寧に、爪と皮膚の間から根本まで隅々まで舐め尽くす。くすぐったいような感覚。でも、猫のようにうまそうに俺の指を舐める桜場をみると、なぜか

「ん…っ」
異常に意識が集中してしまう。

『助けてーっ!!!!』
ヒロインの悲痛の叫びなんて遥か遠くのようだった。



 



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