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ああ。なんて彼は。

(素晴らしく腹の立つ奴だなこいつ…っ)
思わず尊敬しそうだよ。
「ストーリー展開はどこかでみたことがあるような物だし、トリックも頭脳戦も単調で簡単。いくら映画の中の世界とは言え…ごく普通の高校生が極悪殺人犯と戦うのは無理がありすぎるだろう。それに」
「あーもーいいからっ!!」

ぺらぺらと文句を言い出した桜場の言葉を遮ってやる。
「…なんだ。事実だろ」
桜場は目を伏せてさらりと言ってのけた。

「……そーじゃなくて。ここは映画館なんだし、マナーってもんがあんだろ。…静かにしてろよ」
偉そうに言ってみたけど、それは本音ではなくて。

(どーせ俺は単調で簡単なトリックがわかりませんよー。こんな映画でも面白いとか思っちまうよっ)
「………っそんだけ」
桜場のほうに向けていた体をスクリーンに向ける。
(つか、もーちょっと 周りの奴のこと考えろよっ)
…悔しいのは、場面が変わる度。桜場が言っていた評論みたいなのが浮かんで、映画にはもう集中できなかったこと。

"つまらん"

そう言われると…本当にそんな気がした。けど見はじめたらチケット代を考えるともちろん出るわけにいかないし、桜場を見るのはなんだかなにかに負けた気がするからできない。すると自然に食べ物に手が伸びる。

(醤油バター味にしてよかった)
とか思いつつ。キャーッとヒロインが甲高い悲鳴をあげたのを確認して、もう一度右手を食物の中に入れようとすると、右側から長い指をした大きめの手が伸びてきて

(!!)
右手首をつかまれた。


 (え 何 何)
心臓が早鐘をうつのは、映画がシリアスなシーンに突入したからではない。ヒロインが犯人に襲われそうとかどうでもいい。

「…っな、何。お前も欲しいの?」
そんなわけないだろ、と頭の中の俺が突っ込んでくるけど、できればそうであってほしい。桜場の手の平の熱が、じわじわと俺の右手に吸い込まれていく。

「…清水」
「なんだよ」
名前を呼ばれて、なぜか心臓が跳ねた。
「それ、美味いのか?」
(…………え)
めずらしく神への祈りが通じたらしい。本当にめずらしく。

「う、うん まぁ」
「そうか」
(なんだ、びびった…)
拍子抜けした…とはこのことなんだな。

(だったら早く手を離して欲しいんですが…)
「オレも味見させてもらおう」
「えっ」
くいっと引っ張られて、体は右側に傾く。桜場はあろうことか、ポップコーンの油でべたついた俺の指をぺろりと舐めた。

「ちょっ…!?おま、何考え…っ」
「うるさい。マナーはどうした」
「…なっ」
軽く睨まれて俺は言葉をつまらせてしまった。それを確認し、桜場は唇で俺の人差し指と中指をくわえてから、舌で撫でる。

「っ…!」
(な、何…っなんだ、なんだこれっ)
ざらざらしたものが指の上を這うのに違和感を感じないわけがない。
「…っ、やめ…っ」
丁寧に丁寧に、爪と皮膚の間から根本まで隅々まで舐め尽くす。くすぐったいような感覚。でも、猫のようにうまそうに俺の指を舐める桜場をみると、なぜか

「ん…っ」
異常に意識が集中してしまう。

『助けてーっ!!!!』
ヒロインの悲痛の叫びなんて遥か遠くのようだった。



 



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