21/59



両手でMサイズのポップコーンを持ってどかっとイスに腰を下ろす。古い映画館だとはいえ、イスは他の映画館とは特に違いは無かった。中はガラガラで、俺達が座ったのは真ん中辺り。他にいた客といえば俺達の2つ斜め前におっさんが1人と、ずっと後ろに親子らしき女の人と男の子。

(…少なぁー…)
気にしないでおこう。そう決めた。

「…桜場」
小さい声で呼ぶと、何だ、と低い声が右側から返ってきた。

「なんで横座るんだよ」
「…横に座らないという選択肢が存在するのか」
…できれば存在してほしいんですが。
暗闇の中、すぐ隣にこの男がいることの危険性は重々わかっているから。
「…ちょ、お前1つズレろよ「静かにしろ、始まる。」
そう言いながら桜場は体をスクリーンにむける。カッチーンと古典的な音がなった気がした。

(むかつく…っ)
彼は俺をいらつかせる天才だ。右手を白いモコモコの密集地帯にぶち込んで、つかんだものを口に頬張った。噛むと、ザクザク、ガリガリ。見た目は綿菓子みたいでも、やっぱりとうもろこしなんだと感じる瞬間。

――そして、映画が始まった。


 上演が始まって
30分ほど経った頃。
(おぉ…!!密室じゃん!!でもこれってアリバイは…)
俺は体を前に倒して映画の世界にのめり込んでいた。容疑者にされてしまった幼なじみの無実を証明するために主人公が真犯人を探す…
ありがちなストーリーではあるけれど、作りこまれた設定に、独特なキャラクター。難解なトリック。先の読めない心理戦。客を取り込んでハラハラさせる演出など、予想をこえるほど密度の濃い内容だった。…もちろんそれが映画にのめり込んだ一番の理由だけど、右隣りにいる男が予想外に何もしてこない…というのも大きかった。

(…まぁ 映画を見てるんだし、それが普通なんだけど…)

ちらりと右側に目を動かしアイツの様子をうかがうと、桜場は腕を組んで眉に軽くシワを寄せていた。

(なんでこんなイラついてんだこいつ…)
俺の視線を感じたのか、彼は口を開いた。そして一言。
「………つまらん。」


 



「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -