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桜場はふっと口角を持ち上げる。
「…ここ…この映画館には来たことがあるんだ。……かなり昔だけどな。」

笑みのまじった声につられて、俺は顔をあげた。
「そーなんだ」
「…ああ」
桜場は嬉しそうに目を細めた。なんでかはわからない。

(来たことあったのか…へー…あれ)
ごくごく当たり前に
はっきりと浮かぶ疑問。

"誰と?"

「ー…っ!!」
(ア、アホか俺…っ!!どーでもいいだろそんなことっ!!)
ぶわっと全身から汗が。震える両手で拳をつくった。そーゆーことをいちいち考えてる自分が腹立たしくてたまらない。

(どーっせかわいい彼女と来たに決まってるだろっ!!てかこんなボロい映画館連れて来られるのってかわいそうだなぁうん!!)

とかなんとか一人でぐるぐる考えていると、ポン、と頭の上に大きな手がのった。
「っ!?」
俺が顔をあげると、桜場は口を開いた。

「安心しろ、家族とだよ。…2人きりで来たのはお前が初めてだ。」
「きっ」
見透かされてしまったような気がして、かぁ〜っと顔が赤くなってしまう。
「きーてねーよ!!」
「あぁ、そうだったか?それは失礼した。聞かれているような気がしてな。」
にやにやと見せ付けるように笑いながら、俺の頭を掻き回す。

「―きっ、気のせいだろ!!つかぐしゃぐしゃにすんなっ!!」
桜場の手を振り払って、改めて髪型を整える。
「…映画なにみるんだよっ」
「…考えていなかった。清水はなにがみたいんだ?」


 (考えてねーのかよ…っ)

だったらなんで映画館なんだよ、とかいうツッコミは心でしておく。
「じゃー俺のオススメなっ」
ビシッと人差し指を壁に張られたポスターにむける。
「"仕組まれた迷宮"…ってミステリーか」

桜場は腰を曲げ、ポスターに顔を近づけた。
「おう!!原作の小説は読んでないんだけど、俺こういうの好きなんだよ!」
俺が明るくそういうと、桜場さんは驚きの一言を放った。
「…色気がない」
「はい?」
(聞き間違えかな?聞き間違えだよね?)
そうじゃないと嫌だよ。

「友人同士で来ているわけでも家族で来ているわけでもないんだ。これはデートだぞ?」
…俺の願いは届かなかったようです。
「………なにがいいんだよ」
俺が腕を組んで聞くと、彼は当たり前のように返してくれた。

「デートといえば恋愛映画だろ」
「は!?」
「恋愛映画みながら主人公とかに感情移入して勝手に盛り上がってイチャイチャするものなんじゃないのか?」
「―――――…」
なんすか、それ。
「男二人でラブストーリーみるとか気色悪いだろ!!」
「…そういうものか?」
桜場は軽く右に顔を傾けた。
「あぁ、ホラーをみればいいのか。コワーイとか言って清水が抱き着いてくるんだな?」
「…さっさとチケット買おうぜ。」
ごめんなさい、俺はツッコミを放棄しました。



 



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