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清水がオレの顔をみつめていた。
(…なんだってんだコイツは!誘ってんのか!?)

そんなワケないことぐらいわかりきっていたが。好きでたまらないヤツにみつめられていたら、冷静でなんていられない。

(誘っていると言ってくれ…)

そうすれば
堂々とお前を抱ける

(…何考えてるんだオレは。アホか…)
「―っ…」
清水が下を向いた。耳が赤い。

(…可愛い…な)

車の中は、こんなに狭かっただろうか。手を伸ばせば届いてしまう距離じゃないか

(…ん)
赤信号。ブレーキを踏んで車を止める。清水は下を向いたままだった。

(…どうしかしたのか…?)
オレは一瞬眉をよせ、声をかけた。

「―…清水」
「っ…なに」
「こっち向けよ」
心臓の鼓動がはやくなっていく。清水の肩がわずかに揺れた。
「…やだ」
(そういうだろうとは思ってたけど…
言われるとショックだな…)
「…なんで」
「嫌だから」
「答えになってない。…………さっきはオレの顔、ずっとみてたくせに」

言うまいかどうか迷ったが、言わずにはいられなかった。清水の顔が赤い。
(あー…くそ)

可愛いにもほどがあるだろう。
「みて、なっ」
清水がオレのほうに顔を向けようとする前に、清水の右腕を掴んで。ぐいっと引き寄せる。

キス
してやった。

「っ…」
目を閉じて。

(なんだ…これは)
時間が止まったように感じる。―錯覚…重なり合った唇の熱が体中に回る。触れたい。抱きしめたい。もっと、深いキスをしたい。
誰にも奪われないように。強く、深く。壊すほど。清水を愛してしまいたい

(く…っ)
それでも
清水の気持ちを無視して、それをしてしまったら。
清水を傷つけるのは
わかってる
(堪えるしかない…よな)
もどかしい。もどかしくてたまらない。
「…!」
清水の腕が、オレの後ろに回った。それでも、触れては来ない。
(なんだよ…触って来いよ…っ)
やめておけ。お前に触れられたら、もうオレはたぶん。止まってやれなくなってしまう。
(…だめだ、抱きしめたい…っ)
甲高く、後方でクラクションが鳴った。
(―!)
横目で信号をみると、青に変わっていた。

(…あ、危ない…)
オレは清水の腕を離して、口づけを終わらせた。清水のことを一度も見ないまま、オレは車を進めた。

きっとアイツをみたら、
あの感情がぶり返す。
清水に触れていた手はハンドルを握って。

(―おかしいな…)
車の中はこんなに広かっただろうか。
手を伸ばせば届くはずなのに
遠くて
遠くて
いつまで経っても
届かない気がする
(……わかってる…)

この感情の名前は
恋 だ

 



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テーマ「人外ファンタジー」
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