俺は桜場の横顔をみていた。嫌というほどみてきた顔のはずなのに、学園の外でみると全くちがうもののような気がした。車を運転している桜場…ってなんだか…かっこい
(―いワケねーだろっ!!!何を血迷ってんだ俺は!!!!)
顔を下に向ける。
叫びだしたいけど出来ないのがもどかしい。
「―っ…」
車の中ってこんなに狭かったっけ。手を伸ばしてしまえば届くような距離…で
(―あ)
赤信号。キッと音をたてて車がとまる。俺は自分の足の上に手を組んで、それをみつめてた。
「―…清水」
「っ…なに」
「こっち向けよ」
(…!)
「…やだ」
「…なんで」
「嫌だから」
「答えになってない。…………さっきはオレの顔、ずっとみてたくせに」
(―…!!!!コイツ、気づいて…っ)
「みて、なっ」
俺が桜場のほうに顔を向けようとすると、右腕に桜場の手があって。ぐいっと引き寄せらる。
(!!)
キス
された。
「…っ」
目を見開く。
(なんだこれ)
時間が、止まったように感じる 錯覚。重なり合った唇が熱をおびて。それ以外何をするわけでもなく。ただ唇が触れ合うだけで
(なに なんだろ…これ)
もどかしい。もどかしくてたまらない
「……っ…」
手、を。桜場の背中に伸ばそうとして…そんな、こと出来なくて。ぎゅっと手の平を握りしめる。甲高く後方でクラクションが鳴った。
(―あ)
横目で信号をみると、青に変わっていた。桜場は俺の腕を離して、口づけを終わらせた。俺のことを一度もみないまま、桜場は車を進めた。俺を引き寄せた手はハンドルを握って。
(俺…っなに…しようとしてた…!?)
体全体が熱くなる。ふるふると手が震える。
息がうまく出来なくて。
(―あれ…)
車の中って、こんなに広かったっけ。手を伸ばせば届くはずなのに
遠くて
遠くて
いつまでたっても
届かない気がする
(……なんなんだよ…)
きっと
この感情に
名前なんてない