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「…しっ…失礼…します」
「…どうぞ」
ガチャ、とドアを開ける。
「!」
桜場と目があった。ふいっと顔を右にそらす。今日はそんなに暑くないのに、なぜだか汗が伝った。
(う…うわーなんだろ、この感じ…っなんで手ぇ震えてんだよ…!!)

俺は音をたてないようにゆっくりとシートに腰をおろすと、ドアをしめた。
(う、お、っ…)
心臓の音が少しずつはやくなる。
「…じゃ、出すぞ」
「あ、はい、うん、どうぞっ」
なんでだろう、桜場の顔がみれない。俺の目にははいてきたジーパンがうつっている。車という名の、小さな箱の中。桜場と俺。2人きり。

(あーもーなんだってんだよ!!こうなることぐらいわかってただろっ!!)

ぐらっと車体が揺れて、桜場の愛車が排気ガスを吐き出す音がした。ゆっくり前に進む。それからスピードに乗って、学園の敷地を出た。騒がしいのは、心の声ばかりで。
俺の口は、接着剤でくっついてしまったみたいに開かない。車内が沈黙で埋まる。

(…なんか、なんか言わないと…っ)
それでも、声は出な
「…おとなしいな、清水…緊張してるのか?」
からかうように言われた。ばっと首をひねって桜場を睨む。
「…っ!!?」

違う、って言いたいのに、声が出なくて口をぱくぱく開け閉めする。
「ったく……でも、よかった」
進行方向を向いたまま、桜場が嬉しそうに口元を持ち上げた。俺はぐっと息をのみ、口を開く。

「っ…な、なん、でっ」
ようやく声が出た。
「緊張してるのが…
オレだけじゃなくて」
(―え)
俺は目を丸くして、桜場の横顔をみつめた。
(『オレだけじゃなくて』ってことは…桜場…も、緊張…してるんだ)



 
"俺と一緒にいるから"…?

「っぅああぁぁ!!!!」
「!!!??」
俺が天井に向かって叫ぶと、桜場はビクッと肩を震わせ、車が大きく右に動いた。

「う、ぉわっ」
「―くっ、」

両手で器用に2回ほどハンドルを回転させ、愛車を車道に引かれた白線の中に戻す。無事、元通りに、普通に前進する。

「はーっ…はーっ」
俺と桜場は同時に肩を上下させた。
「…っお前、急にでかい声出すな驚くだろ!!!!」

桜場が俺を睨みつけた。
「しっしかたねーじゃん、もとはといえばお前のせいだしっ!!」
負けじと俺も睨んでやる。

「―は!?なんでオレのせいなんだよ!?」
「そ、れは…っ」
顔が一気に熱くなる。桜場が緊張しているのが俺と一緒にいるからなんだとしたら、俺のことを意識してるってことで、もしかしたら俺みたいに桜場も、今日のこと期待したりしてたんじゃないか
…とか
それは、なんというか

(俺は乙女かっ!!!!)

「なんでもない!!前向いてろっ!!」

嬉しい気がするのは、
なんでだろう

「…はいはい」




 



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