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「…せっかく清水の初めてのキスをしたのがオレだったのに…酔っててハッキリと覚えていないなんて」
(―はぁ!?)
桜場はもごもごとつぶやきながら、うなだれるようにして俺の肩に顔をうずめた。
(ぅわっ…)

「…オレ…本当に酒に弱いんだよ…」
「だっ…たら、なに…」
俺は男2人で抱き合ってなにをしてるんだ…と心の奥でつぶやく。
「…どこまで…したんだ?」
「え?」

「キスは…したんだろ?」
耳元でボソリと囁かれるとドクンと心臓が跳ねた。
「何回も…聞くなっ」
もぞもぞと体をひねって体制を変えようとする。それでも桜場は離してはくれない。
「じゃ…触ったり…した?」
「―っ…だ、だからっ」
脈打つ心臓が壊れそうに痛い。
(まてまてまて!!やばいやばいやばい!!…本当に、まずいって…!!)

腰に触れていた手がゆっくりと上にあがっていく。ぞくぞくーっと背筋が震えた。

「―ッ…」
「…可愛い」
(―!!!!)
「耳元で、しゃべん…」
俺が片目をつぶって抗議しようとすると、桜場は唇でそっと俺の耳を挟んだ。ぴくんと体が跳ねる。
「んっ…!?何…するっ…」
(何か…へん…っ)
桜場は俺の反応を楽しむように、カリ、と耳に歯をたてた。
「―っ」
息を飲んで声を堪えると、桜場は長い舌を俺の耳に忍ばせてきた。

「ぁっ…ゃ、やだっ…」
耳の穴の中を桜場は舌で執拗に這いまわる。
「ぁ、ふっ…」
びくびくと自分の意思に関係なく震える体がもどかしい。全身の力が少しずつ弱まっていく。
「だめだ…っ、桜っ…ば、ぁ…ゃめ…っ」
俺はぎゅっと目をつぶり、眉間にシワを寄せて 感じたことのない感触に堪えた。

 桜場の吐息が僅かにかかるだけで 俺は―…

「清水は耳が感じるんだな…」
桜場はからかうように俺の耳元で囁いた。
「―!!」
(こ…っこのヤロォ…っ)
人を馬鹿にした態度の男に対する怒りと、おとなしくされるがままになっていた自分に対する嫌悪感で体が小刻みに震えた。

(調子に乗りやがって…っ!!!!)
誓いをたてるように拳を強く握りしめる。
(俺を…なめるなよ…?
俺はな…)
「?どうした?し―…」
「触るなっ!!!!」
―ドスッ!!と桜場のみぞおちに俺の右手がうずまった。
(お前なんかに良いようにされるような男じゃねえんだよ!!)
「…っ!?」
みるみるうちに桜場の顔が青く染まった。腹を抑えながら1歩、2歩とゆっくり後ずさる。
「…!!……っ…!!?」
声にならない声を喉の奥からしぼり出しているようだ。それを確認すると、俺は桜場にこう言い切った。
「…失礼しますね。桜場、先生!!!!」
勢いよく振り返って右手で鍵を開けて扉を開く。…俺は2秒ほど止まっていたけど、桜場が呼び止めることはなくて
(…くそっ)
扉を開けっ放しにしたまま駆け出した。

『…可愛い』
「ああぁあぁっ!!!!」

(誰が可愛いんだよっ!!
ばかやろーっ!!!!)
桜場のことなんか考えたくない。俺は
振り切るように全力疾走をした。


 



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