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場の空気にそぐわない声を出した俺は、密着しそうなほどそばにいる桜場から酒のにおいがしないか確認するふりをした。それに対して桜場は大きくため息をつき

「…聞いたよ。京…梶原先生から。」
「えっ…―な、何を…」

俺は梶原の名前を聞いてあからさまに動揺した。
(言い直したよな…今。…別に、『京平』って呼べばいいのに)
「あの日のこと…」
(…!!)
瞬時にいろんなことを思い出して かぁっと顔が熱くなった。桜場の右手が扉から離れたかと思うと、俺の首筋をそっと撫でた。
「っ!?」
俺の体がぴくりと跳ねる。
(なんだ!?)
「あのキスマーク……オレがつけたんだよな…?」
(え!?)
桜場は目を細め、答えというよりも、同意だけを求めるように聞いた。

「っあ…う…っん…」
俺は重い口を開き、桜場が求めているであろう答えを返した。
(なんなんだよ!!何だってんだこの空気はっ!!!!)
「よかった…」
桜場は大きな腕で俺を抱き寄せた。
「ちょ…!?待っ桜場っ!?」

俺の抗議は無言のうちに却下され、桜場は力強く俺を抱きしめた。
「…あの時はすまなかったよ。お前に女がいたのかと思うとかっとなってしまって…」
(…え)
『そのキスマークは彼女につけられたんだろう』
…あれは あの言葉は
「…全く…居もしない人間に嫉妬するなんて…オレもまだまだガキだな」
桜場は口元に笑みを浮かべた。
(なん…だ…これ 嫉妬…したのか桜場は…)
それだけで、あんなに取り乱したのか?

「…お、おまえ、そんなに俺のこと…す、好きなんだ?」
目をウロウロさせながら聞くと、なぜだか彼は嬉しそうに目を細めた。

「―ああ。悔しいくらいに…な。」
(…っ)



 ありえない馬鹿としか思えない。
(なに…っなんでだよ…!?)
―男に嫉妬されて喜ぶなんて。どうかしてるとしか…
「清水?」
「っわ!?」
桜場が覗き込むように俺の顔をみつめた。
「…何で笑ってるんだ。」
「わ、笑ってねーよ!!」
(顔近っ!!)
「なんで嘘をつくんだ。口元がやにやしているぞ」
「嘘なんかついてねーって!!つーかいい加減はなせ!!」
この体制で話しかけられると、桜場の吐息が俺の顔にかかる。
「…嫌だ。」
「はっ!?」
桜場はぎゅーっ…と改めて俺を強く抱きしめた。桜場の細い黒髪が、俺の頬に触れてくすぐったい。自分の体が桜場の腕にすっぽりとおさまってしまうと、…桜場は大人の男なんだなぁと、わけのわからないことを考えた。そして、自分の体の細さに落胆した。
(女の子じゃねえんだから…もっと身長欲しいなぁ)
「…清水」
「っ…!!」
(コイツ…わざとだろ…)
桜場は耳元で囁くように俺の名前を呼んだ。
「…清水…聞こえてるか…?」
わざとらしく小さな声で
「っ!!き、聞こえてるに決まってんだろっ…耳元でしゃべんのやめろって!!」
「…わかった」
返事の通り、桜場は耳元から顔を離した。―が。
そのせいで桜場は俺の顔から目を離さなくなった。
「ひ、人の顔じろじろみん―…」
「清水、キスしていいか?」


 



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