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桜場は俺が逃げることはないと判断したのか、あっさりと俺の手を離した。その余裕が気に入らなくて、走り去ってやろうかとも思ったけれど…

「何してる?…早く入れ」
「え!?…あ、う…ん。」
(逃げたら負けた気がするじゃないか―!!)

俺は桜場の後にゆっくりと部屋へ入る。左手で扉を閉めた。第2数学準備室。流星学園の校舎は、北・西・南・東の4つにわかれていて、ここは東校舎の端っこ。…めったに使われない場所だ。
(ということは、)
「…どうした?」
桜場はごく普通に話しかける。

(逃げ道はないってことなわけで…)
「っど、どーもしねーよ…」
俺は桜場の顔から目をそらしていた。
「耳まで真っ赤だぞ。」
桜場はからかうようにそう言った。
「っ!!う、うるせ」
「やっとオレをみたな。」
「…!!」
(しまっ…た)
桜場の言葉にかっとなり、顔を上げてしまった。桜場があまりにまっすぐ俺をみつめるから、……もう目をそらすことなんてできなかった。

「ぁっ…いや、えと」
妙な静けさがこわくて、言葉にならない声で沈黙を埋める。心臓が早鐘をうつのは言うまでもないけど、両手が小刻みに震えるのはどうしてだろう。
「清水。」
「なっ…んだよ…っ」
じりじりと桜場が迫って来る。それに合わせるように後ずさっていると、ついに背中が扉にぶつかった。

「わ、っ!?」
トン、と桜場は俺の顔の隣に右手をついた。左手が俺の腰の辺りへむかったかと思うと、ガチャリと鍵の閉まった無機質な音がした。
(こっ…この野郎鍵かけやがった…!!)

「―ま、待て桜場っ…あはは、どうしたんだよお前ーまた酔ってんのかぁ?」



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