ここは全寮制男子高校、私立「流星学園」。
俺、清水蓮は
でかすぎて立派すぎるこの建物に詰め込まれた男のひとりだ。ごく普通の高校2年生。部活には入らず、成績も中の上あたりをウロウロする程度。…なんだけど。
俺がもしかしたらこれって普通じゃない?とか
おかしくね?とか思ったりするのは―大嫌いなはずの数学教師と、キ…きっ…だきあっ
…変だよな、明らかにおかしい。なんで何がどうなったらあんなことになっちまうんだよ。
…大嫌いなんだ
桜場光一なんか。
本当に。信じてください。
アレ(ファーストキス)とか
アレ(勢いあまって抱き合った…とかは事故みたいなもんで。防げない怪我だったんだよ。…そう思わないと不登校になりそうだ…
ははは。
でもまーアイツは俺をすき…とか言ってるからさ、その…
『大嫌い』はかわいそうかなー…とか思ったりしたりしないこともない。
でもアイツのことを考えると頭いたくなるから苦手なのは変わらないけど。
爽やかな春風。
暖かい日差し。
ゆらゆらと揺れるクリーム色のカーテンをみつめると心の中のモヤモヤとかがすーっと薄くなっていく。
「春だなぁ…」
俺が目を細めてそういうと、後藤が「ですなぁ…」と返した。
口をぽかっと開けて男2人が並んで座っている光景は、周りからすればあほっぽいはず。といっても、昼休みが始まると同時にみんなグランドやら体育館やら図書室やらに行ってしまって教室には3人しかいないのだけど。…なんだか何も考えたくない。
「…てめぇらいーかげんにしろよ。」
後藤と同じくキラキラと光る髪をして、つり上がった切れ目のこの男は、長谷川啓太(はせがわけいた)。
「…こえーなー」
「なー」
後藤の間の抜けた声に俺は相槌をうった。
「っ…なんなんだよ。渚のアホはわかっけど、清水までぼけっとしやがって!!アホは伝染すんのか!?あぁっ!?」
大きすぎる自分と俺達との温度差に苛立ったのか、長谷川は声を荒げた。長谷川と後藤は幼い頃からの悪友らしい。…まぁ今は関係ないけど。
「…伝染て…さすがにひどくねぇ?」(…何もいってやれねえ)
俺は後藤に同情の眼差しを向けた。
「つーかいーじゃーん昼休みなんだし。」
後藤は頭の後ろに手を組み、右足を左足にかけてポーズをとり、自分が座っているイスを揺らした。
「だからってな…」
ガラッ
突然扉の開く音がして
「大きな声を出してどうしたんだ?長谷川。」
嫌というほど聞いた低い声が長谷川の声を遮った。3人とも自然に声のしたほうを向く。後藤はさりげに眉を寄せ、長谷川は大きな音をたてて舌打ちした。…どんだけ生徒に嫌われてんだか。