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俺は清水蓮。
私立流星学園に通うごくごく普通の高校2年生。ちなみに3組。
流星学園通称『流学』は全寮制の男子高校。本日は水曜日。
今はその2時間目。

黒いスーツを着た背の高い男が、見下すように俺に言った。

「この問題解いてみろ」

低い声。黒い髪。白いシャツ。白地に水色のストライプがはいったネクタイ。
そして黒ぶちの四角いめがね。

これぞ教師の鏡!とでもいうようなファッションのこの男は
桜場光一24歳。

(また俺かよ…さっきも俺だったじゃねぇか)

俺はその男からから視線をそらして、
「先生、俺さっきあたりましたよ」
と、ささやかな抵抗をしてみた。

「そうか。それはオレに感謝しなくてはならんな。問題を解くチャンスを2度も与えられたんだから」

桜場はさらりとそれを受け流す。

(コイツ…毎度毎度ケンカうってんのか…!?)
怒りで肩が震えた。

「先生ぇ…?僕、さっきも言いましたけど、そこ、まだ習ってないんですよ」

今日から新しい単元にいくのはかまわないのだが、まだ公式すら知らない問題をどうやって解けとおっしゃるんですか。

「何を言っているんだ清水?
お前、まさか高校生にもなって予習をしてこないなんて馬鹿やってないだろうな?」
わざとらしく目を見張って、嘘臭く言う。
「……」
(この野郎…)

俺が例のごとく怒りに肩を震わせていると後ろからまぬけな声が聞こえた。

「なははー。あきらめろって清水ゥ。お前がばかなのがいけないんだろぉー」
(…っ)
怒りマークが額に刻まれるのを感じながら振り返れば後ろの席の後藤渚が頬杖をつきながらニヤニヤと口元を持ち上げて気持ちの悪い顔をつくっていた。

「うるせぇ。金髪野郎にいわれたかねぇよ。」

後藤の髪は綺麗な金色。それは彼が実はハーフで血筋たから仕方ないんだとかでは全くなくて。ほら、よく言うあれだよ。不良少年。
「それに馬鹿はお前だろうが」

ぎろりと睨んでやると、
「でもその問題わかんねーんだろぉ?」

何がそんなに嬉しいんだ。挑発するような後藤の言葉にかっとなって、考えるよりも早く俺は言った。
「俺は特別数学が嫌いなんだよ!!!!」

俺の声は教室中に響いた。みんな丸くした目を俺に向ける。はーはーと息を整えていると頭に上っていた血が引いて、冷静になった。
(…げっ)
そして気付く。数学が嫌いだなんて言ったら、あの男は。

「……清水今日放課後残って数学準備室に来い。数学の良さを教えてやるよ」

…どうしよう。怖くて桜場の顔がみれない。

「ちょっと待って下さ…」
キーンコーンカーンコーン。俺の声を遮るようにして、授業終了のチャイムが高らかになった。

「はい今日はここまで」

「きりーつきょーつけーれい」
「「ありがとうございましたぁー!」」
その言葉の直後、みんな立ち上がりいくつかのグループをつくって雑談を始める。
「ちょっ…待てよ桜…待ってくださいよ、桜場先生っ!?」

桜場は一言も発さぬまま、視線を俺に向けることすらしないまま、廊下へ出て行った。

「…っ」
俺の伸ばした右手は虚しく空(くう)を斬る。
ポン、と肩に手を置かれた感触がして、振り返りそうになったがやめた。
たぶん振り返ったら俺は、同情のため息をつくであろう後藤を殴ってしまうからである。

「ドンマイ。清水くん」
…―――ゴッ!!
ああ、やはり我慢できなかった。


 



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