沈黙が俺達を包み込んだ。
うまく言葉にできないむなしさが時間が経つにつれ増していく。
『そのキスマークは―』
「…彼女なんて…いねーよ…っ…」
「え?」
ためこんでいたもやもやが、糸をきったようにあふれだす。
「っ…忘れてんじゃねぇよっ…!誰のせいでっ…
なんで俺が…!!!!」
うまく紡(つむ)げない言葉を床にむかってさけぶ。
「なんでっなんで迎えにきたりすんだよ…!!」
言いたくもない言葉が
ぽろぽろとこぼれ落ちる。…桜場の掌(てのひら)がやけに暖かく感じた。
「…清水…落ち着け。…大丈夫だから」
「!」
(くそ…)
いらついて、腹が立ってどうしようもないのに、桜場の言葉が体に染みていくみたいにゆっくりと怒りの波が緩やかになっていった。
「…っ」
俺がおとなしくなると、桜場はそっと手を離した。
(―なにやってんだよ、俺は…)
桜場に優しい言葉をかけられるたび、俺は弱くなっていく
「…るいかっ…」
俺は渇いた声をもらした。
「…ん?」
桜場は俺の顔をのぞきこんできた。―…また、あの時と重なる。
「―っ…悪いかっ!!…忘れられるわけ…っ…ねーだろっ…!!」
―ああ
俺はなんてガキなんだ。そう改めて実感した。
「初めてだったんだっ…
あんなこと言われたの…!!」
『好きだ』
どきどきして
あたふたして
ぐるぐるして
「っ…お前にしたら何度も言ったことがある軽い言葉なのかもしんないけど…!!」
きっと桜場はあの言葉をいろんな人に言っていて。たった1度言われたぐらいで勝手にジタバタしてる俺はまるっきり子供で。
(何言ってんだよ)
それでも
悲しかった
むかついた
ずっと
ずっと考えていたのに
(だめだ。…言うな)
俺ばっかり意識して
「―っ…」
(言ったって、どうにもなんねーのに)
「簡単に、好きだなんて言うなっ…!!」
悔しい
悔しくてたまらない。
なんで俺が
こいつなんかのことで
泣かなきゃなんねーんだ。