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「…え?」

「ふざけんなよ。何なんだよ、お前っ…」
ふるえる声がもどかしい。
「うっとうしいんだよ!!俺のことなんかほっとけばいいだろ…っ」

声がうまくでない。桜場は反射的に声をあらげた。
「ほっとけるか!!…大事な…生徒、なんだから…」
『大事な 生徒』
俺は口元をつりあげた。
「っそーですか。それはありがたい!!桜場先生は、生徒にとっても優しいんですね…!!」

知ってる。わかってる。
俺はただの生徒なんだ。後藤や長谷川と同じ、桜場にしてみれば何百人いる生徒の中の1人。

「…っ清水!!それは違う、オレはっ…!」

桜場が駆け足で階段をおりてくる。桜場は俺の右手首をつかんだ。どくんと心臓がはねる。

「ほっといてくれっていってんだろ!」
「だからっ…!」

桜場は反論をやめようとしない。

(何必死になってんだか)

「…あやまるって何を。
なんかお前俺に悪いことしたのかよ?」
嫌みったらしく笑みをこめて桜場が答えられるはずもない問いをぶつける。
「っ…」
桜場は言葉につまってしまった。もどかしそうな顔をみて、俺は目を細める。――頼むから、もうやめてくれ。
 
「ほらみろ。わかりもしねーくせに、テキトーなこと言うなっ!!!!」
「清水!!」
「…!!」
桜場にはっきりと名前を呼ばれて顔がかっと熱くなった。
「気安くよぶなっ!!」

名前を呼ばれるたび、心はあの日に戻ってしまうから。

「っ…手ェ離せ馬鹿!!」
つかまれた右手を力いっぱい振っても、桜場の手ははずれない。それどころか左手までつかみ取ってきた。

「清水!!」

はっきりと名前を呼ばれ俺は抵抗をやめた。


 



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