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教室の前に立って、扉を開けようとして
手をとめた。

「…っ」
数秒間だけ迷ってしまったがあきらめて扉を開ける。すでに癖になっているのかもしれない。いつものように教室内を見回した。

(―え…?)

オレを嫌っているのがひしひしと伝わる目で睨みつけてくる後藤の前の席。
清水の席が 空いていた。
(清水が…いない…)
「っ…ご、後藤。清水は…どうしたんだ?」

声を出すと溢れてしまいそうな動揺を押し殺し、オレは『生徒を心配する教師』を装った。頬杖(ほおづえ)をつきながら後藤が答える。

「っさー?腹痛いって言ってどっか行ったきり帰って来ねぇ。…そんだけ誰かさんに会いたくなかったんじゃねーの?」
「…っ」
挑発するような言い方に腹も立ったが、そうなのだろうと納得できてしまい何も言えなくなる。避けられるというのは案外堪(こた)えるものだ。

「…先生?授業始めないんですか?」
相澤がオレに向かって聞いた。
「あ、ああ…そう、だな…」
オレは教科書を教卓においた。

(授業…か)
わかっている。それがオレの仕事だ。気になるからといって、やるべきことを放り出すことは許されない。

「…屋上の扉の前。」

「…え?」
後藤のため息まじりの言葉に思わず声をもらした。
「授業中に誰にもみつからないで1人になれるのってそこくらいだろ。
屋上いけねーし。…1年ときはよくみんなでそこにいたしな。」

後藤は外をみつめたままオレにそう言った。

「…そう、なのか…?」
オレは後藤の真意がわからず、聞き返すばかりだった。
「はやく行けば。サボり許すのかよ。」
「…いや…!サボりは…ダメだ。」

後藤は言っているんだ。オレに。

『清水を迎えに行け』と…
「…っ悪い。清水連れて来る。
それまで自習だ!」

オレは教室を飛び出す。


『廊下は走ってはいけないのに。』と心の中でつぶやいた。



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