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俺はゆっくりと数学準備室の扉を閉めた。
だめだ。緊張している。
心臓の音がうるさい。
小さな教室に2人きり。

(…やばい。逃げたい。)
長い沈黙。イスに座った桜場は俺を見ようとしない。

(あーもーっ)
しびれを切らした俺が口を開く。
「なん…ですか」
(…っ)
必死に平静を装う。
…俺の声は震えていなかっただろうか。

「…いや…」
桜場は顔をあげない。
(言い…にくいのか…?)
そりゃそうだろうけど…一言謝ってくれればそれでいい。なぜかそう思っていた。怖かったけど。
驚いたけど。
―いつもの俺達に戻れるなら俺は許せてしまうから。
「…あ、あの桜場先…」
「―お前 昨日彼女と会ってたのか?」
(………)
「――はぁ!?」
「昨日、寮を抜け出して会っていたんだろう?相手も学生か?」
重い口をやっと開いたかと思えば。
「何…言ってんだよ…お前っ…」
今度は俺が下を向いて震える右手を握りしめた。
(冗談…だよな)
…いや 冗談だとしたらたちが悪すぎる。
「だから…その首もとのキスマークは彼女に付けられたんだろうと言っているんだ!」
(…!!!!)
「っ…」
(―本気…だ)
本当に 今朝のことは

『…清水』

覚えて いないんだ。

…あれは
『―好きだ…』
「…ッ…」
俺に言ったんじゃなかったのかよ…!
「清水?」
下を向いたまま動かなくなった俺に、桜場は立ち上がりながら声をかけた。
「―ろ…」
「ん?」
「消えろ!!2度と俺に話し掛けんな!!!!」
「は!?何だ急に…」
「…っ!!」
(そうだな。覚えてないお前からしたら俺が急にキレだしただけだもんな!!)
「もーいいっ!!」
俺が部屋を出ようとすると、桜場は俺の右腕をつかんだ。
「っ!」
ドクンと心臓がはねる。
「…なせ、離せよ!!」
俺が桜場にされたことを誰にも言わなかったことも
「落ち着け!何をそんなに…」
「はなせ…よ…っ」
俺が 一晩中悩んだことも
「…!…清水…?」
「…ばかみてーじゃねーかよ 俺…ッ」

何もかも全部
「やっぱだめだな」
こんなヤツのためだったのかと思うと

「お前まさか泣いて―」
「―アンタなんか…
大ッ嫌いだ…!!」

自分があまりにあわれで笑えた。
俺は桜場の手をはらい、教室を出て行った。
「―清水!!」
今朝と同じようにはっきりと名前を呼んだ、


桜場を無視して。

 



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