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「さっ…桜場先生…?おきたんですか…?」
俺はそーっと桜場をゆする。
「……………」
返事はない。熟睡しているようだった。

(寝言かよ…っ びびった、起きたのかと思っ…)

「好き、だ…」

(―……え?)
今。確かに桜場の声だった。
「―っ!?」
ぶわっと顔が熱くなって心臓が高鳴りをはじめた。じわじわと言われた言葉を理解する。

(いっ 今、好きって言っ―)
「光一ぃ〜っ!!」
「うわぁっ!?」

突然俺でも桜場でもない声がして、全身が硬直するほど驚いてしまった。いろいろなことが1度に起きてわけがわからなくなる。俺は声の発信源を見て

「かっ…っか、梶原っ!?…先生っ!?」

小走りでかけよってくる英語教師・梶原京平(かじわらきょうへい)を驚きのあまり呼び捨てにし、あとから「先生」をつけたした。

「清水?お前、こんな夜中に何し―…」
梶原の声が止まった。
そらそうだろう。はたからみれば桜場が壁に追い詰められた俺を襲っているようにしか見えないのだから。
…というかそれで正解なのだから。―いや、正確に言えば『正解だった』のだ。

「ちっ違う、違うぞ!!桜場が酔っ払ってたから運んでやろうとしただけだ!!…です!っ!ほらっ、寝てるじゃないですか!!なっ、何もされてませんからっ!!」

必死に叫ぶ。けれどこんなことでごまかせるはずがない。

(最悪だ、どうしよう、どうしたらいいんだよ どうしたらっ…)
「そっか ついてねぇなあ清水も!!」

梶原は明るく言った。
「え」
「ったく強くもねーのにあんなのむからだよなぁ」
(信…じた?)
あんなわかりやすすぎる嘘を?
「ほら、早くそいつ渡せ。重いだろ」
梶原は俺に向かって右手を差し出した。
「あ、は はい…」
ゆっくりと桜場の体を起こす。
「ん…んん…」
桜場が軽くのどをならした。
(頼むから起きるなよー…っ!!)


 心で祈る。梶原は桜場の腕を肩にかけ、
「ったく早く寝ろよー」と言った。
「―あ、はい…」
俺が返事をすると、歩きだした梶原が言った。

「そんなんだから光一に狙われるんだよ」

(…え!?)
「かっ、梶…」
「起きてくださいよ桜場先生ぇ〜生徒困らしちゃだめでしょ〜」
「っ…」
聞こえないふり。明らかにわざと俺の声を掻き消した。
(なんだ…あれ。光一…て桜場のことだよな…?)

さっきまで俺と桜場が2人きりだった廊下。

今は
暗闇の中に消えて行った梶原の足音だけがわずかに響いていた。



 



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