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「わ、悪い」
梶原は言いづらそうに謝罪した。困っているような彼の頬が僅かに朱に染まっているのは気のせいなどではない。
謝罪した理由は、後ろに倒れそうになった梶原を桜場が支えたからで、梶原が頬を染める理由は俺にはわからない。
だってそうだろう。
彼らはただの同僚で男同士でしかなく、『わりぃわりぃ』と適当に謝って体を離してしまえばいいだけなのだ。

なぜか俺は立ち止まってその光景を眺めている。だからなんだということなんだけど。
階段の上で転びそうになり、支えられる。そんなことを俺は経験したことがあった。
数週間ほど前に、紛れも無い桜場光一に。

(まぁ、そりゃそうだろ)

誰でも、自分の目の前で見知った顔がすっころびそうになってたら体を張ったりなんだりして受け止める。
…いや俺は後藤や長谷川が転んだところでなんてことないか。
まぁ、とにかく、
それくらい、大したことじゃなかったんだろ、桜場にしてみれば。
よくもまぁそんなこと覚えてたな、みたいな、そんな程度。

べつに抱き合ってるわけじゃないし、ただ支えただけだ。
大したことじゃないじゃないか。アイツは俺を好きだというからそうなのだろうし、倒れそうになった俺を支えたのもそういうことから理由が来てるのかと思ったら梶原にだってするみたいだし。

優しいんですねぇ桜場先生は。


「清水?」

なんだ、変な感じだな。
なんでこんなに桜場が近くにいるんだ?
「し、清水」
梶原は見張った瞳をころころ転がして動揺を強調する。

なるほど俺が歩いて近づいたのか、だから俺を呼ぶ後藤の声が背後に聞こえて、
大嫌いな桜場の顔がすぐそこにある。

がっ、と俺が掴んだのは桜場光一の白いシャツのエリ。
あぁしまった、シワになっちまうな、あれ、なんでだろうな、力抜けねぇみたいだよ


「…清水、どうし」

下っ腹が赤黒くマグマみたいにぐつぐつうなる。脳みそが花火みたいにパチパチ弾ける。


「お前が好きなのは、俺なんじゃなかったのかよ!」


いらいらする
むかむかする
ぐつぐつする
ばちばちする

お前は俺だけ見てればいいんだ馬鹿野郎。



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