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「梶原だ」
と後藤が言った。
それは紛れも無い事実であり、完璧な解答だった。もしもそこになにか説明をつけるとすれば、見ている側が心配になってしまうほどのワーク類を彼がひとりで抱えている、ということくらいだ。

「あっぶねぇな、あんなたくさんつんでたらコケるぞ」

長谷川が言った。
そう思うのも無理はない。だって彼は明らかに無理をしているのだから。


「あ」

そう言ったのは誰だっただろう。後藤だったか、長谷川だったか、もしく俺だったか、はたまた三人ともだったかもしれない。
梶原の抱える薄いオレンジ色のワーク達が作り出す塔の真ん中辺りがぐにゃりと出っ張って、真っすぐだった塔が歪んだ。
梶原は『しまった』というような顔をして、今にも崩壊しそうな塔の動きに合わせて体を動かした。
こういうとき、頭の中はものすごい速さで回転するというのに、体は手の平がパーからグーになるくらいの変化しか示さない。

「梶くん!」

そう彼を呼んだのは長谷川だった。

「っうわ」

梶原はどこか喉に引っ掛かったような変に低い声を出して、ばたばたと塔の残骸を足元に散りばめながら後ろに体を倒していった。

――倒れる!
と思ったのと同時に、『頭からだったらやばいな』とか『漫画みたいに記憶喪失になったりして』とか『長谷川の奴こんなときまで"梶くん"かよ』だとかっていう文字の羅列が駆け足で俺の脳無いを横切った。

…まぁ、漫画みたいなことは漫画でしか起きないわけだけど。

「危ない、京平」

ワーク達が大きな音を立てて階段に倒れていく中、梶原が倒れる音は
ぽすん
というだけのなんとも軽いものだった。



 



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