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ばふっ
俺が予想していたよりも遥かに気の抜けた音がして、固いはずの地面はなんだか暖かくて柔らかい。ざざざ、と俺の頬を引っかいた固い生地はきっとジャケットのそれで、目を開けているのにほとんど真っ黒の世界からして俺を抱き留めた奴は黒スーツを着用している。

どくん

可愛らしくない大きな大きな鼓動が内側からびりびり響いた。
がばっと顔を上げると、
「大丈夫か?」
「……………っ」
「おい?」
焦点合わせるのに時間がかかってしまうほどの至近距離に、綺麗に整えられた漆黒の髪。ジャケット越しに伝わる互いの温度は互いの体に染みていく。
魂が飛んでいってしまったようにただただ彼の瞳を見つめていた俺のもとへ意識が帰ってきて、かぁああっと顔全体を羞恥心を表す赤で染める。

「す、すみませ…」
あんまりにも突然のことに現状を理解するのに時間がかかった。これじゃまるで抱きしめられてるみたいじゃないか。顔が熱くなるのを感じながら、彼の肩を掴んで引き離そうとする。

彼はあっさりと離してしまった。
大丈夫か、と言っているような気はしたけれど、俺にはどうにもできない。

「清水大丈夫かぁ?」
「っ」

顔を覗き込んできた後藤が俺の前髪に触れる。避けようと一瞬顔を引いたけどうまく逃げられなかった。
「うわ、お前顔赤いぞ?熱でもあんじゃねーの」
「大丈夫だって」
「どれどれ、おでこ出してみなさいな」
「わ、」
まるで頭突きでもするように、ごつんこ、と後藤が額を合わせてきた。

「…おい後藤、それする必要あるか…?離れたほうがいいんじゃないか離してやれ」
「まぁまぁ桜場先生、好きにさせてあげましょうよ」
アイツと梶原の会話も、鼓膜のどこかをすり抜けていく。

「熱はねぇなぁ?」
「あ、当たり前、だろっ」

額をぐりぐりしながらしゃべる後藤を突き飛ばす勢いで距離を取って、
俺はそこから走って逃げた。
走るのがこんなに難しいとは思わなかった。

「清水ー!?」
後藤の声も俺には届かなくなった。



(なんで)
一条さんに助けて貰ったときは、あんなにも心臓がばくばくいったりしなかったのに。
「くっそ」
なんで、あんな
「馬鹿野郎ッ」

抱きしめられる行為も、相手が違うだけでこんなにも変わるのか。

(嫌いなんだよ!!)



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