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(う、わ)
なんだろうこの感覚。全身がバリッと緊張状態に飛び込んで、むず痒いような、息苦しいような。

「こっ…さ、桜場先生…」
「桜場…?」
頬を染めながら振り返った梶原と鋭く睨みつけながら首を捩った長谷川との温度差なんて気にせずに俺は3人に背中を向けた。
『そっちは教室じゃないわよ』なんて声が聞こえて来そうだけど俺は承知の上なのでスルーしてください。なぜだかわかりませんがあちらの方角は俺には良くないみたいだ。体が勝手に逃げるんですよ、はい。
つかつかつかと理由の無い速歩きをして、今来た道を戻る。だって、だから、ねぇ。
(気まずいとかそういうレベルの問題じゃないだろおおお)

「あれっ?清水、お前なんでこっち向きに歩いんの?」
(…最悪)
そう。この状況下で起こりうる最も悪いことがしっかりと現実のものとなったのだ。
「いや…べつに」
「…へーそうなんだ?理由ないんだな?ほんとのほんとか?」
(うげっ…ごまかせねぇ…)
「えーと」
「…いいよ、別に理由ないんだろ?だったら教室行こうぜっ」
「わ、え!?な、ちょ待て…っ」
ガシッと力強く肩を抱かれて強引に引き寄せられた。体をぐるんと反転させられ俺が行くべき道が視界に現れる。
「ほら、オレが連れてってやる!」
「うわ、わわわっ」
やっぱり俺が小さなことでも嘘をつくのが嫌らしい。後藤はぐいぐいと俺を押しながら歩き出した。嘘だとわかっているくせにこんなふうにするなんてさすがにひどくないですかね。俺にだって事情があるんですよ全く。
(うぐっ…)
後藤の歩幅は広くて、それに無理をして合わせるから体が小さな悲鳴を上げた。
「……いッ…」
「ん?どーした?」
「え?あ、いや、大丈夫っ…」
ぱ、と右手で口を塞いだ。正直、痛い。今日は確か体育の無い日だったはず、とほっとして肩を落とした。

「よォー啓太!はよっす」
「…おー渚…と清水か」

(!)
「おはよう後藤」
「あーおはよー梶原せんせー」
へらりと返事をした後藤に敬語を使え、と型にはまった注意で梶原が答える。
「…清水」
どく、と。ドロドロに熱いマグマが泡立ったような音が体を一直線に貫いた。その声が桜場の声だと気づくのに1秒は時間が余ってしまう。
「っ」
がくがくと足元から駆け登ってきた奮えが喉までたどり着き声は出なかった。
「…お早う」
「…っお…、は…っ」
俺は今まで16年間、なにをやっていたんだろう。数える気にすらなれないほど口に出してきた言葉が、『おはようございます』が音にならない。
(馬鹿、動揺し過ぎだ。梶原とか長谷川にまで、変なのがバレる)

「…っ」
無意識に右足を引くと驚いた左足とぶつかって彼らが傾く。繋がっている上半身もぐらぁと重力に抱きしめられながら背中が白い床に向かって行った。

「!」

 



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