「清水って、なんだか女の子みたいですね」
見えなくなった背中の余韻を目線なぞるようにしながら一条が言った。ここにはオレとコイツしかいないのだからオレにきっと言ったのだろう。
「…アイツは 清水は女じゃない」
「いや、わかってますよ?ここ男子高だし。」
でも可愛い感じするじゃないですか、と一条はこれぞ笑顔という顔をする。
「――……」
口は僅かだがあけたというのに言葉は発せなかった。"お前に何がわかる" 、そんな教師が生徒に伝えるには相応しくなさすぎる言葉を止められる自信がなかったからだ。可愛い、か。そんなことは承知の上だ。しかし自分以外の人間がアイツに向かって言うと憎らしく思えるのはなぜだろう。嫉妬心か不安か。どちらにしてもおかしな話だ。オレが清水に対し特別な感情を抱いているからとはいえほかの男がそうとは限らない。十中八九違うだろう。
そうだとわかっているというのに、どうしたってコイツのことが気に入らなく感じる。あまり信じるタイプではないのだが、これは直感だった。
「…オレは戻ってやることがある。お前もはやく寮へ行け」
「…はい」
清水が絡むとどうにも冷静で居られない。…平静を装おうとはするのだが、それが出来ていない自覚はある。体を反転させて校舎へ向かって歩いた。振り返りはしない。
せっかく清水とイイ感じだったのに邪魔しやがってなどとはもちろん思っていない。
(…それにしても)
今日の清水は可愛かったなぁと、ほとんど無意識に口元を持ち上げて京平によく『悪人面』と言われる笑みを作った。