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がちゃがちゃばたん。俺は扉を開けました。

「よー清水ー。どこ行っ」
笑顔で右手の平をあげた金髪野郎がみえたけどしっかり綺麗に無視させていただいて、部屋の中は走っちゃいけないから…っていうか走るほどの元気なんて残ってないから俺は早歩きして金髪の笑顔を横切った。

「え!?無視!?」
「悪ぃシャワー使うな。」
騒がしい金髪に一応背中を向けつつ声をかけて部屋の少し奥にある扉を開けると、白い壁の小さな部屋が現れる。洗面台にはちょっと立派な鏡がついていて、そこには俺が居た。
少し髪が乱れているのはなんだろう。頬が赤い気がするのは何故だろう。

「く…ッ」
「おーい清水ー?どーかしたのかー?」
「うるっせーなどうもしねぇよ馬鹿っ!」

後藤が勉強できないことはもうわかってる。英語も数式も読めなくていいから空気だけ読めるようになってくれませんか。無理ですか。そうですか。
どうかしたかって?――…はははっ

(うあああああっ!!)
なぜかいたたまれなくなって、頭の中で必死に叫んだ。それから俺は自分でも驚くほどのはやさで服を脱いだ。

「!」
男のくせに筋肉らしきものがない体に、点々と赤い跡。

「……っ」
桜場の唇が残した跡。ぐつぐつと煮えたみたいに頭ん中が熱くなって、

「うがあああああっ」
「!?びっくりした、ちょ、清水?!」
「!」
脱衣所のドアノブに後藤が手をかけたらしい音がする。

「やめっ」
この状態を見られるわけにはいかないのですよ。
「やめろアホッ!男の裸がみてぇのか変態!!」
「な!?」
「開けたら二度と口きかねぇからな!」
「ひどくねぇか!?清水、オレはお前を心配してだなっ…!」
曇りガラスの扉の銀色のドアノブ。それをひねって扉を開く。タイル張りの水色な小部屋にいた細長く白いそいつが俺を見下ろしていた。

 キュッキュッ
蛇口を捻るとそいつは途端に俺に透明な液体を浴びせてきた。

「っう…ッ!」
ヒヤッと冷たくて体がびくりと縮こまる。固まる体とは反対にどくどく心臓は早歩きし出した。冷水ってことは承知の上。だって、頭冷やしたい気分だったんだから仕方ない。
壁も床もすごく冷たくて、滝業してる坊さんになった感じがした。

「ッ…!」
俺の体に触れてるものは全部冷たいはずだってのに太ももを伝う熱いもの。
(うァ…ッ)

まだ残って…とかじゃなく、アノ男への殺意と自己嫌悪でそろそろ俺は倒れるんじゃないかなっとか思っていると俺の頭は今日の出来事を走馬灯のように思い出し始めた。
車に乗って映画を見て、帰ってきた。たかだかそんだけのことが、別になんらたいしたことない一日が、…桜場と一緒だったってだけでこんなにもめんどくさいことが起きる。
(だからアイツとは関わりたくないんだ…!)

『好きだ』と、俺に言い聞かせるように自分に確かめるようにアイツはなんども唱えていた。馬鹿みたいだけど、男相手だってのに俺は好かれたのなんて初めてだから少しばかり嬉しいとか思ってしまう。

(…彼女とか…作ればいいのかな)
どうやったら、アイツのことを考えなくて済むのか。
誰でもいいから教えてください。

俺は今日の記憶を洗い流すように、10分近くずっと冷水を浴びていた。


 



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