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改めて。この学校は馬鹿でかい。正直とても迷惑だ。いつもなら広くて綺麗な学校には感謝はしても嫌だなんて思わなかった。思うわけがなかった。けどまぁ今はこの前までとはなかなかに違う状況で。寮内にはいって、今は階段をのぼっている最中。
「…ぅ、わっ」

どろり。
太もものあたりに熱をもった粘り気のある液体を感じた。同時にぞわわっと背中の温度は急降下するのに顔は血が沸騰したみたいに熱くなる。

(え!?え!?わー!わー!!うそ、嘘だろマジかよ誰か嘘だといってくれ…っ!!)
これはほらなんというかそーゆーあれで。どういうどれだとか聞かれちゃうと困っちゃうんですけども、考えたくもないっていうか認めたくないっていうか、
「ぅく…」
とにかく。部屋へ戻ろう。

(そんですぐ風呂に入って体洗って、中の、を、だ、出し…っ)
あーもーなんだこれ恥ずかしくて死ねる…!

(出し、てそんでもっかい体洗って流して服着て寝る!!それだけだ!!)
もうなんていうか理性とかそんなの悪いけど気にしてるヒマは無くて、とにかくこれをどうにかしないと。ぐらんぐらんと視界が揺れてんじゃないのかってくらい頭が熱い。ゆっくりと、それはもうゆっくりと階段を上っていった。
手すりに捕まってバランスをとりながら片足に軽く体重を預けて反対の足を段差より少し上まで上げて、それを下ろし今度は逆の足を上げる。たかだかそれくらいのことが今の俺には精一杯。

(あーもーくそ…っ)
やっぱり死ぬ気で抵抗すべきだったんだ。嫌だ嫌だってもっと泣き叫んで、『やめねぇと訴えるぞ』くらい言えばよかったんだ。(なんで、俺が大嫌いなヤツにあんなことをされねーといけないんだわけがわからねぇ!)

とかなんとか考えてるうちに、俺の前に立ちはだかるのはラスト一段。
(やっと終わる…)
「…清水?」
(へ)

ほぅ…と安堵のため息をついた途端名前を呼ばれて顔をあげる。ばちりと目と目があったのは、気に喰わなそうに眉を寄せる英語教師だった。


(梶原…!)
なんでだろうか。なんでかはよくわかんないけども。とても、出会ってはいけなかったような気がした。

「…どうかしたのか?」
眉間に一本深いシワを刻みながら、梶原は俺を睨むように見つめた。その問いはきっと心配とかではまるでなくて、ただの事実確認。大丈夫かと聞かれてしまうと、
「だ…大丈夫、です」
と答えるほかないのではないだろうか。

「そうか」
『どうでもいいけど』なんて心の声が聞こえそうですよ先生。じろじろ見られるとこそばゆい感じがする。

「あ」
「えっ」
一刻も早くこの場を立ち去りたいってのに、梶原さんがあげた声に俺もつられた。

「光一知らない?」
(…え)
「…ッ…」
いやだから、梶原さんはただ単に桜場がどこにいるかを知りたかっただけで、そりゃまぁ見かけないだろうね一日中俺と居たんだから。

「…清水?」
「あ、いや、えーと」
それよりも大変なのは名前をきいて俺が思い出したアイツが、アイツ、が。
"あのときの"桜場だったことで…

「光一がどこに居るかわかるの?」
「いや、」
「アイツ今日ずっと居なくてさ」
「し、知りません…!」

目の前に居た梶原さんを押しのけるようにして、俺はその場から逃げだした。


 



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