45/59



「…だったら、荷物整理やら先生方に挨拶やら、いくらでもやることはあるだろう?」
「あぁ、それならもうすませてしまったんですよ。今は寮の周りを見て回ってたんです」
(あぁ、一条さんやめてくれ)
「…なら、なぜこんな誰も通らないような場所を?食堂に図書館にグラウンドに武道場に体育館…見るところは嫌と言うほどあるだろうに。」
「その辺りは使ってる人が居ると迷惑をかけてしまう気がして、後日にしようと思ってたんですよ」
「今日は休日だ。部活動で使われていないところは見学可能だと思うが?それに、どうしてお前は一人で居るんだ」
「どうしてと言われましても…」
「一般的に考えて入居したばかりの転校生をそのまま一人で放って置くほど冷えた学校では無いと思うんだがな。」
「あぁいやそれは」
「――あの」

素早く駆け抜けていく言葉達。桜場の言葉の奥に隠れた嫌悪。一条さんの言葉の奥には純粋さしか存在しなくてただただ真っ直ぐに答えているだけで。それがますます桜場をヒートアップさせていた。

「どうした?」
「どうかしたの?」
こちらを向いた二人。
「悪いんですけど、俺部屋戻りますから。」
(ケンカすんなら二人きりでしてくれよな)
「え」
「えっ」


 

俺はふたりを見ないようにしながら体の方向を変えて、寮の入口へ歩き出した。

「ッ」
(いってぇ…え)
ずぐりと重い痛みが体の下の方を襲う。なんかもう全部が嫌だ。

「おい、一人で大丈夫か」
(お前にだけは言われたくねぇよ!)
桜場の言葉が全て厭味に聞こえるのは俺の耳がおかしいからなのか。
「っ、…う、ぃッ…」
ぎぎぎと歯を食いしばってなんとか痛みを堪える。あーゆーのって痛いのはその時だけなのかと思ってた終わってからもめちゃくちゃ大変だなぁとかああもう何言ってんの俺。

「清水、送ろうか?」
「いやいいです」
一条さんは桜場に殺されたいのだろうか。自惚れなんかでは全くないけど、アイツなら殺(や)りそうで怖い。

「何があったのかは知らないけど、つらそうだし…」
「っ大丈夫ですから」
「でもふらついて」
「大丈夫です!!」
(つらそう?つらいに決まってんだろこんなの俺の体じゃねぇ!)

一条さんの優しさが、なんだかとーっても嫌なものに感じて。八つ当たりじゃねぇかと思うんだけど苛立ちは抑えられなくて
俺は振り返ることすらせずその場を去った。

 



「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -