(だいたいお前はいくつなんだっていうね。高校生相手に大の大人が何ムキになってんだよ!)
ぱっ、とその人は俺の体から自分の腕を外して、「ごめん」と本当に申し訳なさそうに眉毛をへの字にする。そんな風に謝られたら俺だってなんだか悪い気がして
「こちらこそ」
と返した。
こちらこそ、大人気ない大人が申し訳ありません。
「…………」
俺とその人が会話をしていたのが気に食わなかったのか、相手にしてもらえないのに苛立ったのか、たぶん両方な桜場さんは紫色のオーラを纏いつつ彼に声をかけた。
「…名前は」
「僕ですか?」
「当たり前だ。」
(あーもー恥ずかしいったらねぇよ)
何だろうこの感じ。
うまく言えない、うぐうぐするようなもどかしさっていうか、昔からの知り合いだからそいつがどんな奴かはあらかたわかってるのにそいつが女の子の前とかでカッコつけてるときの自分は関係ないのに恥ずかしい、みたいな…
勝てるはずない挑戦挑んでるのがあわれっていうか…
「一条幸人(いちじょうゆきと)。2年3組に転校してきました」
「2年3組?」
「…」
目を少しばかり大きくして、確認するようにそのクラス名を口からこぼす俺と、ぎっといかにも不満そうに歯を食いしばる桜場。
(子供かお前は)
「あれ、オレってそんなに二年生に見えないかなぁ」
「違う違う。…俺も、2年3組なんです。驚いただけ」
偶然ってのはすごいもんで、たまたま出会った転校生がさらりと同じクラスだったらしい。こんな中途半端な時期に、と思ったけど転校するのにちょうどいい時期なんて存在しないんだろうな、と考えを改めた。
「へぇ、おんなじクラス?嬉しいなぁ、明日知ってる人が一人も居ない教室行くの不安立ったんだよ。」
「お、俺達も今日が初対面ですけどね」
この人、一条さんの笑顔をまぶしくって俺の顔が引き攣る。
「そうだね、でもなんだか初めて会ったって気がしないな」
(…いつの時代のナンパだそりゃあ…!)
「一条」
ねっとりとした、色で言うなら黒に成り切れない紫のような嫌な声が彼を呼んだ。
「はい?」
「お前、今日来たばかりなんだろう?」
「そうですけど」
桜場のオーラがそろそろ具現化して一条さんを突き刺しそうだっていうのに、彼はあくまで恐ろしいくらいの純粋を突き通す。