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「…大丈夫か」
俺が怪我でもしてないかって心配した上で、俺に質問を投げかけているはずの桜場さんは俺の方向は見ていても俺は見ていなかった。

「…見ない顔だな」
ぐ、と桜場さんはさらに眉間にヒビをつくる。

(…ん?)
"見ない顔"?
(…おかしいな)
この流星学園は超のつく名門校で、うじゃうじゃいるってワケじゃないけど人数は都内じゃかなり多いほうだ。だからごく普通の一般教師が生徒の顔を覚えてなくても全然不思議じゃない。しかし、だ。
ここにいらっしゃるのは"ごく普通の一般教師"のお面を被った"ぶっ飛んだ数学教師"なんだよ。何となくじゃなく顔と名前をはっきり覚えてらっしゃる桜場大先生が"見ない顔"っていうのは変なんですね。はい。

「えーと…この学校の先生ですか?」
その人はなんでか全く理解できないが俺を抱きしめたまま離さずに桜場に問う。いや、気づこうよアンタおかしいって。

「…あぁ2年数学担当桜場だ。転校生か?」
「はい。へぇ、数学の先生なんですか」

きらり、と星が舞う。…あぁ錯覚か。この人があんまり綺麗に笑うから、きらきら光って見えたよ。

「くすっ」
「!…何が可笑しい?」
「いえ。なんか、数学の先生っぽいなぁと思って。」


にこにこと一点の曇りもなく綺麗で。悪気なんて存在するはずもないとでも言うような彼の笑顔がそこにはあった。

(…確かに)
俺は一応10年以上生きてきたわけだけれども、ここまで"数学"という聞いただけで頭痛がするような堅っ苦しい言葉がばちりとあてはまった人間に巡り会ったのは初めてだ。

「…それは、嫌味か」
「へ?何かいいましたか?」
首を傾げる彼に桜場はピクピクと眉を動かす。

(…なんか後藤とは違うタイプの天然だな)
心の底からいい人で、それが体外に溢れ出してるみたいだ。
「…何でもない。とにかく清水を離せ」
「え?」
ぱち、と彼は目を見張る。桜場はたぶんきっといや絶対にかなり怒ってらっしゃるのに、相手が生徒ということで全力で怒りを抑えようとしているようだ。
「…清水?…あぁ、君、清水っていうの?」
「あ、はい、まぁ」
桜場のほうをみていた彼が俺のほうに顔を向けて、突然の至近距離にどきっとした。

「ごめん」
「い、いえ別に」
「離せ」
「………」
(あーもー…)

なんなんだよアイツ。普通にいい人じゃんいちいちイライラすんなよなぁ

 



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