ばふっ
俺が予想していたよりも遥かに気の抜けた音がして、固いはずの地面はなんだか暖かくて柔らかい。石鹸の香りがふわわと鼻先をくすぐって、まるで人間みたいだった。
(――って)
がばっと顔を上げると、
「わっ、だ、大丈夫か?」
「……………人間」
「は?」
焦点合わせるのに時間がかかってしまうほどの至近距離に、綺麗に整えられた栗色の髪。
「おい…清水?」
「…っ!」
(……っ助けてくれたのか!)
「ご、ごめ、悪ぃっ」
あんまりにも突然のことに現状を理解するのに時間がかかった。これじゃまるで抱きしめられてるみたいじゃないか。かぁぁと顔が熱くなるのを感じながら、彼の肩を掴んで引き離そうとする。
「え?あ、ちょっ」
「――ぅわっ」
見知らぬ奴に助けられるなんて恥ずかしすぎる。こんな時くらい空気読んでくれればいいのに俺の膝はそれを嫌がって、力が入らずカクっと折れた。
「危ないっ」
「!」
ずるっと体がまたアスファルトに吸い寄せられそうになると、長い腕が伸びてきて俺の背に回った。目を丸くしてるうちに視界は暗くなって、また香り始めた石鹸。
(――ってオイ待て、これじゃ完全に…ッ!)
ぎゅうっ、て何やってんだよアンタ。
男として心底恥ずかしいのと、こういう状況になってしまった理由がぐるんぐるん頭の中を回って
顔が熱くなるのが収まらない。…というか、これって俺がおかしいのでしょうか?
いくら最近俺はどこぞの数学教師に毒されまくっているとはいえ、どうにかとどまっているはず。…だ。が、どーしてもどーあったって男同士ががっつり抱き合っちゃってるような…
(違う違う違う!普通に、ただこの人は俺を助けてくださっただけであって!)
偶然こうなってしまっただけで、親切なこの人をホ、…とかそういうのではと疑うのは大変失礼だ。
(とにかく礼言わないと!)
「あ、ありがとう、ございます、大丈夫だから」
「駄目だって無理しないほうがいいよ?さっきだって…」
その人の肩にやった手でぐい、と押し返そうとしても、彼の腕がそれを許さない。
(ちょ、おい、おいっ!)
「清水!」
「!」
背後からの低い声。ぐりっと顔を回して視線をやると、眉間にくっっっきりとシワを寄せた桜場先生が。