隠して恋情
君と私の相違点
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「あの、神崎君。妹弟がごめんね」


 不機嫌にしている神崎君に話しかける。実は怖い。とても近づける雰囲気ではなくて、さっきまで仲良く話していた子ですらも近づいてこない。それほどまでに顔に出ていた。


「今のが妹弟、ですか」

「中三の愛衣と中二の愛樹」

「ああ、だから妹弟なのか」

「そこ? まあ、合ってるけど。妹の下に弟だから妹弟なの」


 一般的に弟妹と呼ぶことが多いが、私は妹弟と呼んでいる。それは神崎君が言った通り、妹の下に弟だから妹弟。どう言われようが妹弟と言っている。私のかわいい妹と弟だからね。


「だいぶ、シスコンですね」

「え? シスコン? 誰が?」

「見つからないようにしてるのか」

「何が?」

「……なんでもないです」


 そう? 首を傾げると神崎君はそっぽ向く。「借り物競争に出る選手は入場口にお集まりください」と丁寧なアナウンスが聞こえた。借り物競争は人気な種目だから二、三年が前に出る。それを見た一年が前に出る。そして憧れの人がチームメイトやクラスメイトを連れて行くのを見て来年同じことをする。それが体育祭の伝統、のようなもの。だと卒業した先輩から聞いた。借り物競争が終わったらお昼だ。今している競技が終わったら借り物競争だ。人ならいいが、ものもあるのだ。去年は仮面を付けた実行委員会というものもあった。引いた子は必死に探していたのはあちこちに行っていたから。今年もそういうのを期待している。私は少し離れた場所から座って見ることした。毎回そんな感じだからチームメイトもそういう子として扱ってくれる。私以外にもいるから何も言われたりはしない。なんレースかして神崎君の番になって、チームの歓声が高くなった。主に女子生徒の歓声だ。それまでのレースは生徒会書記や定年そうな教員とかだった。定年嘱託教員ではなく、定年そう≠ェ
ミソらしい。物ならマイクや椅子とか持ち運びやすいものかそれなりに重いものまでさまざまだ。わりと楽しい借り物競争だ。一レース六人で走る借り物競争、神崎君は三番目で生徒会命名お題ボックスに手を入れた。お題ボックスは一つのみで、順番に並んで退いてから開けることになっている。一番目の人は落ち込んだように、二番目の人は小さなガッツポーズをした。神崎君は少し考えるようにお題の紙を見ている。ぱっと顔を上げてチームメイトの方に寄ってきた。


「寺崎先輩、来てください」

「ほふ?」

「お題が部活の先輩兼チームメイトなんです」

「りょーかい」


 簡単で良かったね、と笑いかけると神崎君は目元を赤く染めて「はい」と言った。かわいい後輩の頭を撫でて手を握る。早く、と引っ張るとまた「はい」とだけ言う。どうしたのだろう、と見ようとすると逆に引っ張られる。ちょっと楽しくなったのは誰にも秘密だったり。あと、内心嬉しいと思ったことも誰にも言わない。私の秘密。





 借り物競争の結果を言えば、順位は二位。二番目のガッツポーズをした選手が一位でお題はマイクスタンドだった。マイクを外すだけだから楽だったろう。
 午後の始まりは応援団の応援、そしてその次にスウェーデンリレー。応援団見たかったが残念だ。おもしろいものもないが、一位を獲得したアンカーとハイタッチをした。けど思いのほか痛くてヒリヒリした。午後はチーム対抗競技ばかりで、チーム対抗男女混合リレーもその一つだ。それも一番最後。神崎君はアンカーなようで、足が速いのか、と漠然と思う。その漠然と思ったことは正解だった。第一走者から接戦していたチーム対抗男女混合リレー。全員で八人なのだが、一度は第五走者で離された距離を第七走者が縮め、アンカーで再度接戦になって外野が盛り上がった。本人たちは必死だったと、インタビューに答えていた。楽しそうなアンカーたちの中に神崎君はいる。私といるときにはしない表情にずきりと胸が痛い。帰ってきても、チームメイトにもみくちゃにされていて話すこともできない。――ああ、私と彼は違うのだ。どれだけ部活が同じで仲が良くても違うのだ。そう、思い知らされた気がした。


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