見えない引力
[06]
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 いつも通り学校に行き、いつも通り教室に行く。そしたらすでに君島は来てい

た。と言うより、俺はあいつより早かった試しが一度もない。断じて、俺が遅い

わけではない。


「おはよう、君島」

「おっす。五十嵐」

「はよ。五十嵐、お前今日の英語当てられるぞ!」


 君島は楽しげに言ってきた。


「楽しそうだな、おい」

「君島! ノート見せて!」


 冴島が君島を頼ってきたようだ。どうやら冴島も当たるらしい。五十音の「い

」と「し」ってそれなりにちかいもんな。英語の担当教諭ってけっこう当ててく

るし、日付で当てる生徒決めるし。


「見せるわけないだろ?」

「ソーデスネ」


 みんなの兄貴は手厳しい人です。見せてくれないなら、自分で整理するしかな

いか。


「そういやさ、今日って委員会決めんじゃなかったっけ?」

「そだっけ?」

「ああ、何か言ってたな。興味ないけど」

「積極的な奴がするから縁ないよな」

「確かに」


 そう言って笑った。委員会か……恵理ちゃんや奨ってすんのか? イメージ出

来ない。


 昼休みが終わって担任の授業だ。授業時間を使って委員を決めるらしい。だべ

っていても文句は言われない。相談と思われているようだ。


「図書、整備、風紀、保健、体育、文化。で当然に委員長と副委員長か。文化と

整備って何すんだ?」

「文化が文化祭の実行委員、整備が美化だ。やりたいのあるか?」

「いや、無い。むしろやるつもりない」

「そうだよな」


 それが俺の悪戯心に火を点けた。


「先生! 君島君が図書委員やりたいって言ってます」

「はあ!? 五十嵐! お前何言って……!」

「そうか。じゃあ君島、図書委員な」

「先生! 俺何も言ってないですよね!?」


 担任は君島椿と黒板に書いた。それを見た君島が棒読みで言いやがった。


「せんせー。五十嵐が文化するってさ。いやー、来たばっかなのに向上心凄いで

すよねー」

「そうか! 立候補者は居ないか?」

「俺の時は聞かなかったのに!」


 誰も手を挙げない。
 え!? 男の方、俺で決定!?


「じゃあ五十嵐は文化な」


 黒板に書き込まれる五十嵐涼太という自分の名前。
 何でこうなるんだよ! いや、俺が悪いけど! 自業自得だけど!


「五十嵐。悪いと思うなよ?」

「は……はい」


 君島は怒らせると恐いことが分かった。あの目はマジで恐かった。
 はあ。文化委員なってしまった。まあ、今は恵理ちゃんと帰れてるからいいや



「あ」


 進行方向から来る顔に見覚えが……店長じゃん!! 店長ってこっちに住んでた

の!? ご近所さんだったの!?


「五十嵐じゃねえか。今日シフト組まれただろ。こんなとこで何やってんだよ」

「今日は時間があるので一旦帰ろうかと……」

「もう4時回ってるぞ」

「マジっすか!? うっわー、今からじゃ完全遅刻じゃん!」

「じゃあ買い物頼まれてくれよ。ほいリスト」


 店長に無理やり渡される。


「買ってきたら遅刻は免除だ。頑張れよ、五十嵐」


 店長……量がハンパじゃありません!
 去っていく店長の背中を見てため息をついた。


「涼太?」

「いや……じゃあ俺、行かないと」

「うん。……あ」


 恵理ちゃんが見てる方を見た。誰も居ない。


「またね」

「……うん」


 俺は品揃えの割と良いスーパーに行くために元来た道を戻った。
 だから、知らないんだ。恵理ちゃんが一ヶ所を見つめていたなんて。



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