見えない引力
[05]
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玄関で靴を履きかえてクラス替えの紙を踊場の掲示板で確認して、それぞれのクラスに行くために歩き始めた。恵理はC組で俺と君島がD組、奨がA組だった。
「あーあ。恵理ちゃんと違うクラスになっちゃったよ」
「まあまあ。五十嵐、ちょっと来い」
「何だよー」
君島は俺の肩に腕を回して言った。
「違うクラスでも体育は合同だ。体育は同じ時間割だぞ」
「まじ?」
「嘘言うかよ。奨のシスコンは今に始まったことじゃないし、シスコン話を聞くのも言いんだが……いつか桐谷妹が離れる時が来るだろ?」
「それで俺を捕まえたってわけか、君島は。だから教えてくれる?」
「妹の元カレな、殴られただけで別れたんだ」
「そんなもの、障害と思えばいいんだよ!」
そうだ。殴られただけで終わるなら今までの俺はとっくに終わってるんだ! だからこそ、今俺は必死なんだ。
「じゃあ、私この階だから」
「え?」
恵理ちゃんのこの階、という言葉。いや、階ってなんだよ。
「クラスによって違うんだよ、階が。行きながら話すから行くぞ」
そう言われれば食い下がるわけにいかない。俺はどもった声で返事をした。また歩きはじめるとちゃんと説明してくれた。
「一階は特別室が一つ。で、二階がA組、B組、C組。三階がD組、E組、F組。四階が演習室。二階と三階それぞれに二部屋ずつ演習室があるから。それ以上はまた授業が始まってから説明するから」
「おう。深桜って広い上に縦に長いんだな」
「そうだな。学校は公立だったのか?」
「ああ。だから慣れない」
「ま、気楽に行こうや」
同い年なのに兄貴みたいな君島に惚れそうです。友人って意味で。
教室に入ると騒がしいのはどこも同じらしい。この金持ちが揃う学校で俺はちゃんとと上手く過ごせるか不安になってくる。いや、既に不安がある。君島が居るからまだ良いだろうが、君島が居ないと一人ということになる。
奨は引きこもりらしいし。恵理ちゃんは違うクラスでしかも女の子だ。初登校で話せるのは今日初めて会ったのに普通に話せる君島くらい。何で俺、転校したんだろう。
「五十嵐? 何不安そうな顔してんだよ」
「いやだって、話せる奴って君島くらいだから」
「大丈夫。みんな良い奴だよ」
そう言われても不安は消えない。適当に席つくと君島は前に座る。一応気遣ってくれてるらしい。
「おっす、君島。そいつは?」
「登校中、桐谷妹と歩いてるのを見かけて友達になったんだよ」
「五十嵐涼太です。よろしく」
「おう! よろしくな」
君島の言う通り、良い奴が多いみたいでほっとしたのは秘密だ。うん、上手くやっていけそうな気がしてきた。
しばらく君島と話していると担任が来て軽い説明をしてから講堂に移動する。恵理ちゃんに会いたいけど見かけないだろうな、とか思ってると本当に会うどころか見かけもしなかった。
「校長の話、眠いよな」
「俺なんて起きてたためしねぇよ」
「俺も。何回聞いたよって感じでさ!」
「確かに! お前とは話が合うな」
「おお。この学校で初めて会ったのが君島で良かったよ」
目を開いて君島は俺を見た。何か分からないから首を傾げると君島は突然笑い出した。
「な、何だよ」
「いやー。素直だと思ってさ。そう言ってもらえると俺は嬉しいぜ」
「捻くれたとこもあるぞ」
「だとしてもだ。俺はお前のこと、気に入った」
「どーもです」
変わった人だ。
その後、先生に怒られて会話は終わった。けど、集会が終わった後、また話していた。
「はぁー。やっと終わったー」
俺は集会後のホームルームを終えて、机に突っ伏した。
「そうだ。このあと何人かで遊びに行くんだけど、五十嵐も来るか?」
「やめとく。これからバイトなんだよ」
「そうか……じゃあ次からはシフト教えてくれよ。調整するから」
「うん。ありがとな、君島」
俺は立ち上がり荷物に手をかけた。そのまま廊下に行くと恵理ちゃんが居た。
「どうしたの?」
「道、分からないと思ったから」
「え?」
「朝、言ってたよね?」
「覚えててくれたんだ……」
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「うん」
「えっと……」
これからバイトって言いづらい。恵理ちゃんは朝と同様に、不思議そうに見ている。
「覚えたの?」
「いや、覚えてない! けどその……これからバイトなんだ」
「へえ」
感心したような声音に、俺はきょとんとする。
「恵理ちゃん?」
「凄いね、涼太」
「あ、ありがとう」
言われるとは思わなかった言葉。俺は素直にそれが嬉しかった。
公立高校から来た俺を普通に受け入れてくれたこと含めて、ここで上手くやってきける気がする。
「恵理ちゃん、好き」
「そう」
あっさりと返された。さすが恵理ちゃん、慣れてるのね。
「告白とか結構される?」
「うん」
「だから慣れてるのか。反応薄いはずだわ」
「でも涼太みたいな反応の人、初めて」
「そうなの?」
「みんな落ち込む。涼太みたいに前向きじゃない」
恵理さん。それって貶してますよね?
「恵理ちゃんって……」
「ん?」
「……何でもないよ」
天然なんだろうな。とか思いながら、恵理ちゃんと途中まで帰った。
途中、人に道を聞きながら無事、バイト先まで行くことが出来ました。