見えない引力
[04]
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 君に触れたいのは好きだから。でもそれは一目惚れ、というやつからで。いいかな? それでも。君と居たい。君を見たい。君に話したい。君に触れたい。でも触れられない。好きになったからこそ、大事にしたい。


「恵理ちゃん! おはよう」

「涼太……おはよう」

「一緒に行っていい?」


 恵理ちゃんは首を傾げたけど、小さく頷いた。できたら一緒のクラスになりたい。けど、隣人だから我が儘は言えない。だからせめて、一緒のクラスになるといいね、とだけ言った。よくわかっていない恵理ちゃんはすこし間を頷いた。
 どうでも良さげに見えるけど、ただ表情が変わらないだけなんだよな。クールビューティーって恵理ちゃんみたいな人を言うんだね、きっと。


「涼太、道わかる?」

「え?」

「学校までの道」

「そういやまだ知らないな」


 深桜学園には数度目になるが、あまり覚えていない。それを言うと、恵理ちゃんは驚いたように目を開いて俺を見た。「覚えてないのに一人で行こうとしてたの?」と器用に顔が言っている。あまり表情に出ていないが、雰囲気がそう言っている。


「でも、同じ制服の人について行ったら着くでしょ?」

「……」

「恵理ちゃん?」


 急に黙ってしまったから立ち止まる。恵理ちゃんは表情をあまり変えない。だから何を考えてるのか分からないことが多い。


「深桜、私服でも良いんだよ」

「え……マジで?」

「うん。道覚えるまで、一緒に行く?」

「え? 良いの?」

「うん」

「やった。ありがとう! 嬉しいよ!」


 好きな人と登校出来るのって良いよな! しかも恵理ちゃんから誘ってもらえるとか! 俺は多分、今すごいおかしい人に見えてると思う。今はそんなこと気にしないけど!
 恋人じゃない場合、好きな子と一緒に登校ってとてもうれしいことだと思うんだ。片想いだから苦しくなることもあるかもしれない。だけど、俺は恵理ちゃんが隣にいるだけでうれしいかあら、今はまだ、この状態で良いと思う。
 しばらく歩いていると、学校が見えた。恵理ちゃんが通っていて、今日から俺が通う深桜学園だ。学校に着いての第一声が「でかいな」だった。いや、中学校と高校一年間が公立だったから普通なんだけどさ、感想としては。公立の高校も中学もそれなりの広さだったんだよ。狭いわけじゃないけど、特別広くない。


「校門で中高別れるの。大学が別の校門」

「へえ」


 あまりの広さに感心していると後ろから「よっ、桐谷妹。早いな」と声が聞こえた。恵理ちゃんが向く方を見ると男が居た。気安く話し掛けてるから同じ学校なんだろうけど……


「椿君、おはよう」

「おう、おはよう。そいつは?」

「桐谷家の隣に越してきた五十嵐涼太です。よろしく、えっと……」

「俺は君島椿。こちらこそよろしく」


 いい子っぽいです。


「桐谷妹と一緒にいてぶっ飛ばされなかったか?」

「告白したらグーパンチ喰らった」

「あー……またやったのか」

「また?」

「あいつのシスコンは筋金入りだから」


 ああ、と納得してしまった。告白しただけでグーパンチを喰らった。じゃあ付き合ったら? あいつに殺られるんじゃないか? 考えただけで恐ろしい。自衛策を考えた方がよさげだな。


「どうかしたか? 五十嵐」

「恵理ちゃんと付き合う奴を殺しそうだなって思ってさ」

「お前が?」

「奨が」

「……」


 君島は驚いて目を開く。


「お前……」


 緊迫したような言い方に俺は固唾を飲んだ。肩に手をおいて君島は俺を見る。真剣なその表情はかっこいいからモテそうだ。奨が正統派なら君島は優等生系でモテそう。


「分かってるな!」

「え?」


 そんなくだらないこと考えていたら、思いがけない返答に俺は驚いた。奨と呼んでいたから怒られると思った。素直に言ってしまったが、「本当のことだことしかねえよ」と君島は笑う。


「奨な、中学ん時に桐谷妹と付き合ってた奴を殴って停学になったことがあんだよ」

「こわ! 何その武勇伝! 見た目はひょろいのに強いの!?」

「妹限定だよ。あいつ運動は苦手だから」


 そこまでシスコンをこじらせるって相当やばいと思い始める。あいつ、恵理ちゃんの行動はわからなくても恵理ちゃんを好きな奴の行動ならわかってそうだ。シスコンで頭よさようで二物三物与えられてるんだな。


「そういや奨は? 休み?」

「うん」


 凄いな。居ないだけで休みって言うなんて。遅刻じゃなくて休みって限定した言い方、普通しないよ。


「ねえ、二人とも」


 静かに、申し訳ないような感じもない恵理ちゃんの声が俺と君島を指す。


「何?」

「もうすぐホームルーム始まるよ?」

「どんだけ話してたんだよ、俺ら」

「はは。これからよろしく、君島」

「おう」


 恵理ちゃんはなぜか、不思議そうな表情を向けていた。



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